深い雪に覆われた林道に、嬉しくて仕方がないと言った様子で息を跳ね上げながら駈けてゆく娘の姿があった。
肌身を刺す厳しい寒さなど物ともせず、その顔には笑みが湛えられている。

行く先に、豆粒程の人影が見える。
それが誰であるかを認めた時、駈けていた娘は堪らず声を張り上げた。

『千歳!!』

千歳と呼ばれた青年は両腕を振り上げ、娘に向かって大きく手を動かした。
加速して、彼我の差を詰める。
娘は雪を蹴って前へ飛ぶと、その勢いのまま青年の胸に飛び込んでいった。

青年は娘の身体を確(しっか)と抱き留めた。が、勢いを殺し切れず、二人は抱き合ったまま後方の雪へと倒れ込んだ。
高らかに幸せに満ちた笑い声が響く。

『…会いたかった…!』

自然と引いた笑い声の後、娘を抱く腕に力を込めて青年が言った。

『私も…っ、』

会いたかった、の言葉は急に喉に込み上がった熱い想いの塊によって声にならなかった。
感極まり、目に涙が浮かんだ。

青年は娘の顎を取り、顔を上げさせた。
しばし見つめ合い、彼の目の中に想いが閃くのを見た。
何をされるかを悟った娘が睫毛を震わせながら目を伏せる。
青年と娘は熱い口付けを交わした。



蝦夷…今は北海道と名を改めたその地を雪が白く染め上げる。
冬の厳しさは日本でも指折りで、真冬には吐息も凍るとさえ言われていた。

その様な土地に今、弾けんばかりの想いを抱いて、遥か南の薩摩から年頃の娘がやってきた。
名は、風間千賀。
西国で最も大きな鬼の一族、風間家の長女である。

千賀はこの度、頑固な父の許しを得て、晴れてある青年と結ばれる事となっていた。

青年の名は、土方千歳。
かつて新選組の鬼副長と呼ばれた土方歳三と、彼を一番近くで支え続けた雪村千鶴との間に出来た男子である。

北と南、遠い距離にある二人が何故出会い、如何にして結ばれたのか。
それは今より大分前、彼等がまだ幼い頃、千鶴が風間家に宛てて書いた書簡がきっかけとなっていた。

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