襲ってきた隊士は、大きな物音を聞き付けて飛んできた幹部達によって直ちに捕らえられた。

本来なら隊内で問題を起こしたとして処罰される所、別段何をされた訳でもないのでというナマエの温情により、隊士は不問となった。

釈放された彼はナマエの強さと隙の無さの生き証人となり、一連の事をあちこちに吹いて回ったため、図らずともそれは間違った考えを起こそうとする者の抑止となった。



その時の出来事を回想し、山崎は此処に居ないナマエを思った。
万事において完璧な彼女の事なので何も心配する必要などないのだが、それでもやはり、体調や無事を案じてしまう。

早く顔が見たい。
声を聞きたい。

あれこれと考える事が全てナマエの事ばかりであると気付き、これではあの隊士と変わらないではないかと、山崎は己の心を戒めた。

最近は気付けばナマエの事を意識の隅に置いている。
視界に入れば必ず彼女を見るし、誰かと立ち話をしていれば無意識の内に耳を峙(そばだ)ててしまう。

近頃幹部連中からの警戒が解け始めた事もあり、事情を知る彼等とはよく接している様である。
時には談笑している場面を目にする事もあり、その度に山崎の胸に何とも形容し難い苦い感情が広がった。

今日の彼は非番である。
屋内に居てはあまり良い気分になれそうもない。
特に用事は無かったが、山崎は島田に外出する旨を告げ、足取り重く京の町へと出掛けていった。
良い気分転換になればいいのだが。
青く広い空を恨めしそうに仰ぎ見て、山崎は内心でそう呟いた。



その日の夜半過ぎ、結局悶々としたまま一日を終えてしまった山崎は何かを察知して浅い眠りから目を覚ました。
誰かの話し声が聞こえた気がした。
このような夜更けにまさか有事だろうかと、山崎は音も無く布団を抜け出して気配がする方へ向かった。

方向は、土方の部屋であった。
障子から明かりが漏れており、彼がまだ起きている事が解る。

土方は無理を押してでも仕事をしてしまう性分なので、このような時刻に明かりがあっても珍しい事では無い。
ただいつもと違うのは、此処から複数の人間の声がしたという事だ。
今はしんと静まり返っているが、先程は確かに“感じた”。

副長の邪魔をしてはいけないと思うが、何やら気に掛かるものがある。
勘は時として重要な働きをする場合もあるので大事にすべき、と修練の際にナマエにも言われている。

山崎はその場で暫く悩んだ末、躊躇いがちに障子の向こうへ声を掛けた。

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