先に不知火が生徒会室に入り、ナマエは彼の後に続いた。
中には既に風間ともう一人の姿があった。

『おや、ナマエも一緒でしたか』

そのもう一人の方が、背の高い不知火の影に隠れていたナマエの姿を見つけ、声を掛けてきた。
風間に仕えている天霧九寿だ。

風間は白の学ランだが、彼は応援団長のような黒の学ランを着用している。

『さっきそこの廊下で一緒になったんですよ』

ナマエが簡単に説明をすると、天霧は柔和な笑みを浮かべて、そうでしたか、と言った。

『ふん、さっさと昼食の支度をしろ。
こちらは貴様等が来るまで食べずに待ってやっていたのだぞ。
これ以上俺を待たせる気か』

決意とは、対象を目の前にすると見事に崩れるものだと、ナマエは改めて思い知った。
先程まであれだけ脳内でシミュレーションしたというのに、極度の緊張で身体が動かない。

『だったら先食ってりゃいいだろうが。
誰も待っててくれなんて頼んでねえよ』

不知火が文句を垂れながら天霧の隣に腰を下ろす。

『これは風間なりの不器用な気遣いなのですよ、不知火。
察してやって下さい』

同情する様子で天霧が諭すと、風間が不愉快そうに顔を歪めた。

『聞こえているぞ、天霧』

まるで寸劇のような彼等のやりとりを何処か遠くの事の様に聞きながら、ナマエは心臓をバクバクさせて入口に立ちすくんでいた。
それに気付いた不知火が、意地悪く口の端を持ち上げてにやりと笑った。

『ほらナマエ、早くしねえとマジで弁当食っちまうぞ』

発言を訝しく思った風間は、一度不知火を横目に見て、それから真っ直ぐナマエを見た。
目が合って、ナマエは瞬間身を強張らせた。

『…何だ。隠し事か』

『違います!』

勢いのいいナマエの否定ぶりに、風間は更に目付きを鋭くする。
不知火は笑い出しそうになるのを我慢しようと、口元を両手で覆っていた。

『ならば何だというのだ。
さっさとせぬと、飯を食う暇が無くなるぞ』

空腹もあるのだろう、風間はあからさまに苛々している様を見せた。
その雰囲気にナマエはすっかり畏縮した。

手で手を包んで胸に当てる。
…このままでいる訳にはいかない。
万一失敗したとしても、今ならこの場の二人がフォローしてくれる気がする。
そう考えたナマエは意を決して、喉から絞り出す様に声を発した。

『…ごめんなさい、あの、…千景さん!』

顔を茹で蛸のようにして、ナマエは何とか言葉にした。
名を呼んだのだから、これでお弁当は奪回出来るのだが、今はそれどころではなかった。

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