父と母は泣いていたが、ナマエは不思議と涙が出なかった。

ナマエは母の手をしっかり握りながら、双子らはどうしただろうと思った。
この炎の中、自分達の様に逃げられはしただろうか。

四半刻も経たない内に、先ほどまで自分達がいた辺りの空が朱に染まったのを、母の手に引かれながら見たのをナマエは今も覚えている。



逃げても逃げても彼らは追って来た。
鬼の生き残りの存在を人間は許さなかったのだ。
隠れても探し出され、紛れても見つかった。

それでも桜野家が今まで生き延びてこられたのは、ナマエが優れた察知能力を有していたからだ。
ナマエは広い範囲で気配を読む事が出来、その能力を使って、人間が彼らの影を踏む前に逃げる事が出来た。







そうして何年も逃げている内に辿り着いたのは、今住んでいる此処、京に程近い山里だった。
長い流浪の生活の中で、気付けばナマエは二十を数える歳になっていた。

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