桜野の地は雪村一族の中で一番北に位置している。
南から攻めてきた人間達の手から逃れられたのは、こういった理由もあった。

始めは滅びの道を覚悟した桜野家であった。
家屋を焼き払う炎が空をも焦がし、炎で染まった禍々しい朱色の空がじわじわと近付いて来るのを、一家は凪いだ心で見ていた。

そこへ本家からの伝令役が雪村当主の伝言を持って現れた。
“逃げ果せ、生き延びよ”との命だった。
当然桜野家は断った。
いくら本家当主の命とは言え、一族がこの様な時に自分達だけ逃げ出すなど出来ない、と。

伝令役は下した命に込められた当主の意思を桜野家に語った。
“雪村の血を絶やしてはならない。
徳川が長く繁栄を極めているのは、時に傍流を迎えながら血を絶やさなかったため。
我ら雪村も、どのような形であれ続いていくべきである。
我らの生きた証を、記憶を、どうか次へ繋いで欲しい。”

桜野当主である父はひどく悩んだが、当主の願いともいえる命を聞き入れることにし、先祖代々受け継いできた桜野の地を捨て、逃げることにした。

[ 7/292 ]


【←】 【→】

[目次]
[しおりを挟む]


【top】


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -