変になっていく心 05 | ナノ




 鋭い犬歯を見せ付け唇は三日月のように歪み、燐を見下ろす悪魔。笑わない瞳は欲望の炎だけを燃やしている、その瞳と視線が合うだけで息が荒くなり、心臓の鼓動も早まる。
 掛け布団は既にベッドから滑り落ちて床へ、一人用のベッドに二人は狭い。だというのにメフィストは器用に燐の両脚を抱え、下肢に履いていたジャージも脱がし終わり下着と一緒に無造作に辺りに捨てられている。

 ぐちゅぐちゅ、と音が響き燐には入るなんて思いもしない場所へ先刻から指先が出入りを繰り返す。入る前に潤滑液として塗られたローションが時折どろりと溢れ、後孔から零れて落ちていく。四肢はびくびくと震え、どうにか歯を噛み締め鼻から抜ける掠れた吐息だけに抑えようと堪える。
 雪男がいるのだ、声を出す訳にいかない。

「っ…う、…ん…」

「もう悦くなってきているのですか?先程まであんなに嫌がっていたというのに」

 くっくっと喉を鳴らして笑うメフィストが憎らしい。燐は自分の力には自信がある方だった、だというのにふざけた態度と格好した目の前の道化師にはまるで敵わなかったのだ。ジャージを脱がされる際に嫌だと掴む手を易々と剥がされ、有り得ない場所に指を入れると知った時に逃げようと後退る体を簡単に脚を捕らわれ押さえ付けられた。
これはもう強姦だ、憎らしく思わない訳がない、だが一番憎らしいのはメフィストが笑うように気持ちがいい自分自身だった。

「っ…ひ、…っ」

 最初は異物感しか感じなかったというのに今は指が内壁を擦り、掻き回すのが悦い。段々と本数の増えていく指。私は爪が長いので、そう笑っては外さなかった紫色の手袋はローションでぐっしょりと濡れていた。その指先がごりっとした箇所を押し擦れば、びくんと抱えられた脚が大きく空を蹴り目の前がチカチカと光る。何だこれ、何だこれと疑問に思う燐の思考もその得た事のない快楽に流されそうになる。

「ああ、失礼致しました。ここでしたね、…ここで得られる快楽は癖になるそうですよ?」

「やっ、…っ!…う、っ」

 耳許に色香の纏うバリトンで囁くとぬるりと舌が耳孔に入り込む、ぞくぞくと下肢から込み上げる痺れに意識が朦朧とする。容赦なくそこを擦られ、無意識に腰を浮かせて緩々と揺らす。じわりと浮かんだ涙で潤う瞳は、最後の抵抗とばかりに淫行を強いるメフィストを睨み付けた。
意外にもメフィストは間の抜けた顔で瞳を丸くさせ、すぐにふっと口許を緩めると燐の細い片足を肩へ引っ掛けるように抱え直す。

「…いい子です。いやいや、ちゃんと主の煽り方を理解しているとは素晴らしい。ご褒美を差し上げましょう」

 ずるりと抜けていく指、それを名残惜しそうにヒクリと後孔が収縮するも燐はそっと安堵の息を吐く。しかし次にぴたりと押し付けられた熱、それが何かと理解すると同時に先端がぬるりとしたローションが纏う後孔の皺をまるで伸ばしていくように擦り付けられる。
それで次にどうされるか理解した燐はカッと体全体が熱くなった。
 冗談ではない、入る訳がない。指を埋められる際に考えた思考が再度蘇る。怖い、先程からメフィストには容赦がない、仄かに怒気さえ感じるこの行為、だというのに快楽に浸るこの体がまるで本当に躾られているようで。怖い、この高鳴る心が慕う気持ちさえもが躾の一環だと思われてしまうのが。

 ちらりと横目をやれば、雪男が寝ている布団の膨らみ。力で敵わないなら情けなくも弟に頼るしかないと燐は心に決めた。その視線を追って眉を顰めたメフィストには気づかずに。

「やだ、って…、…くそ、っ、雪…んんっ!」

 助けを求めた声はいとも簡単に片手で塞がれた。唇に被せて塞いだ掌の持ち主、メフィストの口許に笑みはない。ただ暫く黙って無表情に感情の宿らない瞳で燐を見下ろしている、そして口角をゆっくりと吊り上げ酷薄な笑みをようやく浮かべた。

「肌を重ねている相手とは違う男の名を呼ぼうとするとは、…マナー違反、いえ飼い慣らすにしてもまるで躾が出来ていない」

「ん…っ、…んーっ、っ!!」

「っ、私が、少し厳しく躾ましょうか、?」

 後孔に擦り付けられていた熱がぐっと穴を広げていく、それは気遣いもなく一気に奥まで捩じ込まれた。足指は丸まりがくがくと両脚は痙攣を繰返し、目尻からはポロポロと涙が零れていく。痛みはあるが慣らされた為か堪えられない程ではない、だが呼吸はしにくい。メフィストは燐の瞳を覗いた後にずるりと性器を引き抜く。

「……んう、っ、…ん、っ!」

 熱が抜けていく感覚はゆっくりで背筋はぞくぞくと粟立ち、後孔からとろりとしたローションが溢れて伝う。そして次には手加減なく体をぶつけられ中を突き上げられて、白く視界が霞む。素直になると気持ちいい、痛みしかないだろうと予想していたのが馬鹿だと思える程。どんなに腹が立とうと憎らしくとも、燐の体に入る熱がメフィストなのだと理解している身体は悦んでいる。
そうだ、認めている、メフィストが好きだ、と。そういえばメフィストへの想いを燐自身からも言っていないのだとはっと気付いた。

「ああ、そんなに蕩けた表情をして、はしたないですよ、…盛りのついた、っ、犬のようです」

「ん、…っ、っんん!」

 乱暴な抽送は今や力加減もなく、ずちゅずちゅと響く水音がその激しさを語る。ごりっと亀頭が腸内のあの場所を突き上げれば燐は喉を晒してメフィストの白いマントに手を伸ばしてすがり付く、自然に尻尾もメフィストの足に擦り寄り絡めてしまう。
 メフィストは余裕が無さげに眉を顰めて、燐にすればその姿は珍しい。二人の瞳が合えばメフィストは誤魔化す為か肩に乗せられた肉付きの少ない足に歯を立てた。

「っう、…っ!」

 痛みに瞼を閉じると開ける前も許さないよう、脚を抱え直して体をぶつけて肉も骨も揺さぶり犯していく。唇を覆う掌の中、薄く開いた唇からは唾液が頬へ伝い、段々と蕩けていく思考は視界を朧気にしていく。
しっかりしなくては、好きだと、離したくないと理解したなら真実に愛されてなくてもいい。ただ伝えたい、好きなんだと。しかし口は塞がれている、ならば瞳で訴えるしかないのだ。

「……、イキたいと、目線でおねだりですか、っ。いいでしょう、飼い慣らすには飴と鞭、が必要ですから」

「ん、っ…んー…っ!」

 涙で濡れた瞳では悲哀を乗せるしか出来ないのか、するりと伸びた掌が一度達したというのに既に反り勃ち先走りでべとべとな性器を握り締めて括れに指先を掛けてぐりぐりと先端を扱き上げる。限界に近い身体はそれだけで堪えられず、ガタガタと四肢を震わせ思考が飛ぶ。後は気持ちよくて、もっとと貪欲な思考だけが残るだけ。

「そうやって、快楽に堕ちて私だけに媚びれば、いい、っ。」

「んっ、んっ!…っ、ん…っ、っ!!」

「くっ、…う」

 親指先でぐりと先端を強く擦れば一際息の荒い呼吸、燐は声にならない悲鳴上げてぎゅうとメフィストの服を掴みながらどくりと精液を放つ。それに遅れて中へ熱い精液を放てばどくどくと注がれる感覚に身体を痙攣させながら燐は再度鳴いた。
 メフィストは眉間に皺を刻みふるりと身体が震える、まともの思考が出来てない燐の脳は暫くして掌が唇に離れているのに気付いた。けれど、次に重ねられた柔らかなメフィストの唇の感触に全ては霞んで消えていく。

 間近で見たメフィストの顔は、なんて…なんて顔をしているのだろう。被害者は間違いなく燐自身だというのに。
何か言おうと口を開こうとするも指先さえ動かす事は出来ずに意識は暗く暗く沈んでいった。






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