※原作10話後くらい、捏造
青空、暑い陽射し。木の影で一人きりで膝には弁当箱。夏場の外は過ごしやすいとは言えないが、ただ弁当を食べる間なのだから苦だとは思わない。その筈なのだが箸を持つ燐の手は一向に動かない。
かちりと何もない空を掴むよう時折箸だけが動く。視線はぼんやりと空を仰いでいるだけ。
「武器として、か…」
そう呟いてはまた、かちりと箸を鳴らした。
変になっていく心
所謂燐とメフィストとは恋人の間柄、なのかもしれない。かもしれないというのは明確に想いを言葉にした訳ではないからだ。
ある時、気紛れだったのか唇と唇が重なっただけの仲。だけ、とはいうが燐からすれば大事だ。キスというのは好意を持つ同士のやり取りの筈なのだから。
『何で、お前…』
『さあ、どうしてでしょうね。』
胡散臭い何時もの笑み、その瞳の中に燐は違う印象を感じた。そして、燐の中ではメフィストの存在は恋人に昇格していたし、自分を支える支柱の一人と思える程だった。
けれど燐は思い出す。メフィストの言葉を。シュラに言った言葉を。
『──武器として、──飼い慣らす』
別に燐は驚かなかった。ああ、そうか位しか思わなかった。なんと言っても相手はメフィストだ、胡散臭いあのメフィストだ。
何か思惑があるとは思っていたし、燐の事だって何か楽しそうや利用価値があるから接してきてた筈なのだ。仲間にしろとは言ったのは燐だ。どう扱われようと覚悟はしていた、…つもりだったのだ。
燐は、箸を一度膝上に置いてから徐に掌を開く。そして胸元、心臓の上へ添えると制服のシャツに皺が残る程に力強く掴んだ。
「あーあ、…くそ!」
けれど、どうやら自分が思う以上に自分はメフィストが好きだったらしい、とあの日から消えない心臓の痛みを噛み締めながら燐は笑顔にも怒る表情にもなれない不器用な表情を浮かべて自分を嘲笑った。
じりじりと照り付ける太陽はそんな影の掛かった燐の笑みさえも明るく照らしていた。
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