アイツがルールブックを読み終わった頃、他のバスケの本も貸してほしいと言われて貸すようになった。何回か目の貸し借りをした時、初めて会話した時に思った疑問を思い出した。 「そういえば」 「ん?」 「オメー、名前なんていうんだ」 「…え?今更?」 あはは、とひとしきり笑われた後、 「名前っていうんだよ、楓くん」 そう言われた。 「(名前は名前…1年3組…どあほう軍団の女)」 オレが名前について知ってることはその程度だった。 案外表情は変わる奴。さっきみたいに声を上げて笑うこともあるし、バスケの本を読んでるときの難しそうにしてる顔。…あの時みてーな寂しそうな顔もする。 でもアイツは、他の女共と違ってうるさくはなかった。そこが良いのか、名前といる時は嫌な気分になることはなかった。落ち着くというか、なんというか。そんなことを考えてたらいつの間にか寝てた。 ぺら、と紙の捲れる音がした。それをキッカケに意識が引き戻される。目を開けると青空だった。 「あ、起きた?」 名前の声がする。寝た体制のまま顔を傾けると、名前がオレの貸した本を片手にこちらを見ている。バスケのテクニックが書かれた本だった。 「ね、ね、この技この前練習試合でセンドーがやってたやつだよね」 「………」 「ちょっとずつだけど、そういうこと分かるようになってきたかも」 ニコニコしながら本を見てる。この前の寂しそうな顔はすっかり見なくなっていた。 「練習ね、最近花道以外も見てるんだ。ミッチーの3Pとか、リョーちんのドリブルテクニックとか、あれ凄いんだねぇ」 コイツがバスケを好きになりたいと言ったのは、どあほうのためだ。そう思ったら、なんだか胸に突っ掛りが出来たような感覚になった。 「おめー…どあほうが好きなのか」 「え?」 自然と口から言葉が漏れていた。目を丸くして俺を見てる。 「…好きだよ、花道」 「………」 「恋愛感情じゃないけどね。でも幼馴染みだし、仲間だから」 あの微笑み顔。どあほうの話をするときは、いつもこの顔だ。…どあほうのことを考えているその顔に何故か惹きつけらると同時に、さっきの突っ掛りが大きくなるのを感じた。 「流川にそんなこと聞かれるなんて思わなかった」 「何となく思っただけだ」 「そっか」 寝返りを打って名前に背を向ける。自分の中のこの突っ掛りはなんなんだ。 「今度、陵南戦がんばってね」 「うす」 「負けちゃやだよ」 「たりめーだ」 「花道だけじゃなくて、流川のことも応援してるから」 「………」 その一言で、胸の突っ掛りは消えていた。 桜木軍団の女03/2017.02 |