SLAM DUNK | ナノ
コレの続き


「「だーっはっは!まーた怒られてやんの!」」
「ふんぬー!ウルセーぞオメーら!黙って見てろ!!」

今日も騒がしいどあほう軍団を横目に練習をしていた。その中にはあの女。いつも通り微笑みながらどあほうを見てる。そう思ってた。



「あ、流川だ」

前にも似た状況に遭ったことがある。でも今日は体育館裏じゃなくて屋上だった。アイツが持ってるものも、週刊バスケットじゃなくバスケのルールブックだった。

「サボリ?」
「まぁ」
「お隣、おいでよ」

ポンポン、と自分の隣を叩く女。あの時みたいに断ることも出来たのに、何故かオレは素直に隣に座ってから寝ころんだ。
しばらく無言で本を読んでたソイツだけど、ぽつりぽつり話し出した。

「あれからルールブック借りてきて読んでるんだけどね、難しいね」
「………」
「こんなまどろっこしいの、花道が覚えられるわけないよ。喧嘩しか能がない子だったんだもん」

パタンと本を閉じる。コンクリートの上に本を置く音が聞こえた。

「でも、最近の花道、楽しそう。私たちと馬鹿やって喧嘩してた数か月前と違ってさ。その時がつまらなさそうだったわけじゃないよ?でもさ、違うの」

チラリと女の顔を盗み見る。どあほうを見る時の微笑み顔だ。だけど、いつもと違うのは、どこか寂しそうに眉を顰めていたところ。

「晴子ちゃんの気を引くために始めたバスケがさ、そんなキッカケで始めたものがさ、花道の中でどんどん大きくなっていくのが分かるの」

…何でオレは何も言わずにどあほうの話なんか聞いてるんだ。でも、この女の話を遮って止めるなんてことは出来なかった。

「バスケに花道を取られちゃったみたい」

今まで微笑んでた顔が、微笑んでる顔しか見たことなかったその女の口角が落ちる。寂しいような、悲しいような顔になった女を見て心が焦ってガバッと体を起こした。

「…泣くな」
「…まだ泣いてない」

両手で顔を覆ってしまった。表情が見えなくなった女を見つめる。

「……花道が離れていっちゃいそうで怖いの…」
「………」
「最初は素直に応援しようって思ってたの。でも最近は、そんなことばかり思っちゃう」

コイツと、どあほうの関係なんて知らん。でもコイツにとってどあほうの、桜木の存在はとても大きいんだと分かった。

「…はぁ」

顔を上げた女。オレを見て無理やり笑う。

「ずっと6人で馬鹿やって、つるんでられると思ってたの。花道が私たちを置いていくなんて、ないことだって分かってる。ただ、花道が私たちの中で一番早くバスケっていう夢中になれるものを見つけただけ。…寝ること以外なーんにも興味なさそうな流川も夢中になっちゃうくらいだもんね。そんだけ魅力的なんだね、バスケって」

私も見つけたいな。ルールブックを撫でながらそう言った。

「…流川には花道の話なんてどうでもいいよね。ごめんね聞いてもらって。でもちょっとスッキリした。花道のこと、ちゃんと応援する。ルール覚えて、花道の好きになったもの、私も好きになりたい」
「…貸してやる」
「ん?」
「ルールブック、オレの貸してやる」
「え、なんで?」
「そんな小難しい本なんかより俺がガキん時読んでたやつの方が分かりやすい。だから」何でか分からん。なんでそんな気になったのかは自分でも知らねー。

「…ありがとう流川」

コイツには、バスケを好きになってもらいて―と思った。



桜木軍団の女02/2017.02