SLAM DUNK | ナノ
うるさくない女がいる。
不良なのか知らんが、あのどあほう軍団に交じっていつも練習を見に来る女。どあほう達と違って大声で笑ったりしない。いつも微笑みながらどあほうを見てる。よく分からんうるせー女どもや、赤木妹とは違った。

「あ、流川だー」

屋上は不良共がいるから行きたくねー。昼寝場所を探してフラフラしてたら、体育館裏の花壇に座るその女を見つけた。

「どうしたの」
「…別に」

手には雑誌を持ってる。よく見たら今週号の週刊バスケットだった。今日の帰りに買いに行こうと思ってたやつ。なんでコイツがそんなもんを。
まぁどうでもいい。コッチに来ても昼寝場所はねぇな、そう思って来た道を戻ろうとした。

「行っちゃうの?」
「………」
「たまにはお話ししよー」

振り返るとニコニコしながら手招きしてやがる。

「オメーと話してる暇はねー」
「えー」

断られたというのに本人はしょぼくれた様子なんかなくて、ただ手招きを止めた。

「そういえば、流川と話すの初めてだね。いつも練習見に行ってるからそんな気しなかったよ」
「………」
「最近、花道頑張ってるでしょ」

コレ、と言って雑誌を眺める女。パラパラと雑誌を捲る。

「選手とか知ってたら、これからの試合見るのもさ、もっと楽しいかなって思って買ってみたんだ」
「………」
「でも全然覚えらんないや」

バサッと音を立てて雑誌を閉じた。表紙を眺めるその顔が、いつもどあほうを見てる顔と重なった。微笑んでる、あの顔。
ハイ、とオレに向かって雑誌を差し出してくる。

「コレ持ってる?」
「…持ってねぇ」
「じゃああげる」
「……ドウモ」

手を伸ばして雑誌を受け取る。買いに行く手間が省けた。

「選手の前にルール覚えなきゃね」
「………」
「図書館いったらルールブックあるかな?」
「…あるんじゃねーの」
「じゃあ行ってこよ」

座っていた花壇から立ち上がってスカートを手ではらう。みじけぇスカート。

「じゃあね流川ー。今日も練習見に行くね」
「…うす」
「花道と喧嘩しないでね」
「オレからは何もしてねー」
「ふふ、そうだね」

ばいばい、そう笑って図書館の方へ消えて行った。
雑誌片手に体育館裏に残された俺は、また昼寝場所を探しに歩き出した。

そういえば、あの女の名前はなんていうんだ。



桜木軍団の女/2017.02