小説 | ナノ


▼ とある生徒と教師の事情


「こんな事で優秀な家柄に泥を塗るつもりか…?」

再三やってきた教師は ドア口で中条にそうボヤいた。

(…あんたに んな事関係ねぇーだろーが)
舌打ちは耐えたが、顔と声に反発心が出てしまった。
「だったらペナやめにしたらどうだ?俺の家が怖いんだろ?」
「……そんな甘えがいつまでも通用すると思うな」
小馬鹿にするようにせせら笑った中条に、教師は憤りと呆れを露わにする。

「このあと理事長に君の在学についての話を」
「待って下さい…っ」

そう割って入って 駆けつけたのが、美柴だった。
ぜぃぜぃと息を切らした美柴は、それから先の言葉が繋げられす、ひとまず息を整える。

「…美柴先生?」
最後通告を始めていた教師は、突然の美柴の登場に目を丸くする。
美柴は一度大きく呼吸すると、しっかりとその教師と向かい立った。
そうして 握っていた課題を差し出した。

「!?」
目の前で差し出されているそれに、教師よりも中条の方が驚きを見せる。
言葉を失って まじまじと美柴を見やるが、美柴は中条には目を向けず 教師を真正面から見る。

「これが、彼の課題です」
「……。」
美柴からそれを受け取った教師は、戸惑いと怪訝に顔を歪めながら プリントと美柴を交互に見た。
美柴はその視線にも動じず、じっと見つめ返す。

「……あの、どうして…美柴先生が? それに…何故こんなに破けて……?」
教師の最もの疑問に、美柴は少し罰が悪そうに答えた。

「……先日彼と些細な口論をして…破いてしまったんです。彼は、」
と、そこで乱入から初めて美柴は中条をちらと見た。
突然の視線に 中条は 何も言えず ぐと押し黙る。
その反応を見つつも 美柴は言葉を続けた。

「彼は、俺との言い合いで拗ねているだけです。今回の処罰は見逃してもらえないでしょうか」

そして「お願いします」と、美柴は神妙に頭を下げた。
「!」
いつもは何事にも無関心無感動な美柴の思わぬ行動に、教師も動揺を隠せない。
中条もどう反応したらいいのか分からずに、眉を寄せて唇を噛むばかりだ。

「…美柴先生が、破いてしまわれたんですか?」
「はい。カッとなったとはいえ、教師としてやってはいけない事でした…」
頭を下げたまま 深々とそう告げる。
生徒の行いを まさか自分がこんな風に庇う日が来るとは。
そしてそれを思ったより躊躇なく出来るとは。
美柴も自分で内心驚いていた。

「…見栄えは悪いですが、中身は正真正銘、中条が解いたものです」
教師は心底困ったような様子で 美柴に「分かりましたから頭を上げてください」と言ってから、中条を見た。

「…まったく、そんな事情があるならどうして正直に言わなかったんだ」
「…………。」
中条には やはり何とも言えなかった。
その反応で、教師はある程度真実を悟ったのだろう。
はぁと大きな溜め息を吐いた。

「良い先生に会えて良かったな。感謝しなさい」

そして、「美柴先生も」と厳しい表情で美柴を見やる。

「学内を走るのは禁止です」
「……すみません」
美柴はそう謝ったが、けれど教師は去り際 美柴の肩を優しく労わるように叩いた。

「今回だけですよ。次は許しませんからね」




「……間に合って良かった…。」
教師が居なくなってから、中条の部屋に入った美柴はそう安堵して溜息を零した。
そして ハッとして机に寄っていく。
「他に出してない課題はないだろうな」
「こんなのは金輪際ごめんだ」と文句を言う美柴の背中を、中条は見つめる。

(……なんでだよ…)

そして中条はその背中に トン…と前向きに寄り掛かった。
10センチは低いその教師の頭に、額を乗せた。

「……〜あんた、何なんだよ…」
「………。」
寄り掛かってくる控えめな体重と 呟かれる弱々しい声色に、美柴は机を探っていた手をそっと止めた。
中条は自分を静かに受け止めている華奢な背中に 無性に気持ちが込み上げてくる。

「キレて突っぱねたと思ったら勝手に心配しに来て、ビビって逃げたと思ったらこんな事しに戻ってきて……。いたいけな生徒の気持ちを振り回しやがって……」

後ろから きゅっと腰に腕を回して美柴を抱きしめる中条の手。
それはまるで、子供がしがみつくみたいに…。

「…。」
美柴はその手を あやすように両手で覆って握った。
自分より大きく 骨張った男らしい手。
けれど、その手が歳相応に 甘えてくる。
それが無性に 愛おしく思えた。

「……いたいけな生徒は教師を押し倒したりはしないだろ」
「〜うるせぇーよ」

中条は美柴の首元に擦り寄るように額を埋めた。
どうしても、今の顔を見られたくなかった。
カッコ悪いに決まってるからだ。

「…センセー身体熱っちぃ」
「教員室から走ってきたからな」
「……らしくねぇー事するなよ」
「誰のせいだと思ってる」

やれやれと溜め息混じりに応える美柴に、中条は小さな声で問いかける。

「……生徒となんて、関わりたくないんじゃなかったのかよ…」
「………あぁ、出来れば関わりたくはない…」

美柴は 静かにそう答えた。
それを受け、中条は少しだけ美柴を抱く力を強くした。
もう一度拒まれることを覚悟した。
でも、美柴は その腕の中で ふとささやかに笑った。

「……けど、らしくない事を必死になってやるぐらいには……きっと…」

目を閉じて、背に感じる熱い体温に体重を預けてみる。
背中をぴったりとその胸に収めてみると、中条の早い鼓動を肌に感じた。
そうして、この生徒に一番伝えたかった言葉を 口にする。


「…お前が必要だ」


窓から入り込む風が、その瞬間、部屋の中をバサバサと吹き荒らした。
机から紙吹雪のようにプリントが舞い上がるその中で、その教師と生徒は、初めてのキスをした。




■この恋だけは 足元にひかれてる ラインを消して (魂こがして/トリプルH)


…in those days


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