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▼ 酔っぱらいランデブー

■未来捏造シリーズ。
酔っ払い中条とお出迎え美柴。




ガチャリ

玄関での物音に、リビングでキーボードを叩く美柴の手が止まった。
次いで くるくると天井に備え付けた通報ランプが光る。

…帰ってきたか。

ふぅと一呼吸置いて 時計を見上げる。2時半過ぎ。
「仕事の先輩と飲んで帰る」そう連絡を受けてはいた。
いつもは眠くなれば先に寝るし、別に中条を待つなんて甲斐甲斐しい真似はしない。
今日も、そう、別に、待ってたわけじゃない。
パソコンを弄る用事があって、たまたま夜更かししていただけだ。

席を立ってまで迎い入れるつもりはなくて、しかし手は止めて、パソコンの液晶を眺めたまま 物音を探る。

「…??」
やけに静かだ。足音がしない…、そう少し怪訝に思った途端。


ガタン!

「!?」
何か重い物が倒れた音だった。
無音のリビングにそれはとても大きく響き、思わず美柴は腰を上げる。
今まで騒音騒ぎなんて起こしたことはないが、それでもこんな夜更けに騒ぐのは階下に迷惑だ。
大音を立てるほど酔ってるのだろうか。
まったく…と玄関へのドアを開けて、目を見開いた。

「中条さん?」
倒れているのは、中条本人だったのだ。
声を掛けて 傍らに膝をつく。覗き込んでも 中条は顔を上げない。
「中条さん」
肩を軽く揺すってみると 微かに うーと唸った。物凄く酒臭いし煙草臭い。
何度か名前を呼んで 立ち上がれと促してみたものの、効果は無さそうだった。
それどころか、そのまま突っ伏して寝てしまうそうになっている。

「……こんなところで寝るな…」

あーとうんざりして 美柴は項垂れる。
運ぶのか、これを。寝室まで…。

「…………………」
別にいいのだ、このまま放置しても。
今日はそこまで寒くはないし、なんなら洗面所が近くていいではないか。
………そう諦めようと思った。けれど、視界に入るのは 向かいのドア。
中条はちょうどトイレの前で倒れている。このままでは中条が起きるまでそのドアを開けることが出来ない…。

「…………………」
見下ろせば、中条は くったり脱力した顔で寝ている。
ブス!とその頬に遠慮なく指先を刺してみたが、起きる気配はなかった。
酔ったふらふらの足で ようやく家に辿り着いて。
馴染んだこの家の空気に、安心したのだろうか。
なんとも無防備で、今更ながらこんな表情を見ている今の生活をおかしく思う。

中条がこんな風に酔い潰れた姿を晒して、格好つける事無く素のままでいられる場所は………此処だけであって欲しい。

「………中条さん」
もう一度強めに肩を揺すって呼んでみる。
「〜〜んーっ」と身じろいだ中条は ようやくぼんやりと瞼を開けた。
ごろんと仰向けになると、照明の眩しさに眉をしかめ んんと愚図る。
そうして 眩しさの中に 覗き込む美柴を見つけると、ほわぁとゆるく笑った。

「…おー、美柴ぁ……」
酒臭い。でも…ずいぶん嬉しそうだな。
見下ろしていると、中条の手の平が ペシペシとこちらの頬を優しく叩いた。
まるで 美柴が幻ではないか確認しているようだ。
腕に掛かる中条の手を握ってみると かなり熱く、相当酒にやられていると分かる。

「……飲みすぎ…」
じっと据わった目で見据えてみたが 酔っ払いにこちらの怒りは理解出来なかったようで、ぎゅっと手を握り返された。
思わぬ強い力に 驚いたが、中条を見れば 表情はゆるいままだ。


「ただいま」

なんとも柔らかい声色と満足げな表情。

「っ!」
あろうことか……その一瞬を、可愛いと思ってしまった。

「〜〜」
相手は酔っ払ってる上に寝惚けているのだ。
そう分かっていても、らしくない言動に 少しばかり 胸の奥にきゅっときた。

「……お、…おかえり」

想定外のトキメキに動揺してしまったが それでも応えると、中条は力尽きたのか ゴチンと床に額をぶつけて寝てしまった。

「…………中条さん?」
返ってくるのは ぐーぐーという寝息。

「……………。」

今日だけだ。
今日だけ。

「……だから、こんな所で寝るな…」
はぁと決意の溜息を吐き出して、美柴は袖を捲くった。



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