小説 | ナノ


▼ PINK CALL



「…ッ、ふ…ア」
左手はぎゅっと携帯を握りしめ、右手は柔く自身を撫でる。
本当は痛みも顧みず 終わらせてしまいたいのだが、電話の向こうがそれを許さない。
「掴むなよ、指先で沿う程度だ…痛くねェーだろ」
「っ、痛いほうが、マシ…ッだ…」
「自慰の度に痛くしてイッてたらお前…”そうゆう”性癖になっちまうだろうが。そうなったら俺はどこまでSに目覚めりゃいーんだよ」
………もう十分Sだろう、こんな焦らすような指示ばかり与えて。

「だいたい何で痛くする必要があんだよ、気持ちよくなる為の行為だろ」
「…ッ知らない」
好きで自棄になってヤるわけじゃない。
毎度襲ってくる絶望感から逃げ出したくて、でも身体は気持ちとは正反対で……。
どこまでもシギを追い求める自分が怖くて 諌めようとして、痛めつける。
どうしてこの手がシギじゃないのかと そんな失望感もある。
こんなに見た目を似せてきたのに 肝心なところで一体にはなれない……。

「止めろ。」

突然背中を刺すような声にギクリと手が止まった。

「…なん…で…」
中途半端に高ぶった自身が 指先を求めている。
「…今、俺以外のことを考えただろ。」
「っ!」
どうしてそんな事まで見通せる…。
「………あんた、超能力者か何かなのか…」
「そうやって簡単にカマに引っ掛かるお前が悪いんだよ」
「……………………」
「…………嘘だ。お前は堕ちると分かりやすい。今にも死にそうな息をする」

それを電話で察するあんたはやっぱり超能力者だ…。

「だから止めろっつった。死なれちゃ困るからな?」
「………このままの方が死にそうだ…」
「……ま、そうだな。」
ふと笑った中条が、一拍、もったいぶって間を置いた。

「………どうしてやろうか…」

実に楽しそうな、サディスティックな言い様。
焦らされて、ふーふーと堪えるように息を吐き出す。
なんて言われるだろう。まだ焦らされるのか…それとも……
思った以上に興奮している自分に呆れるが、じれったくてそれどころじゃない。

「先端だけ、掌で覆って ぐちゃぐちゃにしろ」
とんでもない指示を軽々しく言ってくる。
「……好きだろ?」
羞恥心やら期待感やらで う、と息が詰まった。
さっきとは別の意味で、頭がおかしくなりそうだ。身体中の血が熱くなっているように感じる。

微かに震える手で、言われた通り手の平を被せる。
ずり、と擦ると快感が走って 思わず強く目を閉じた。

「アッ…、っ」
吐息の合間に 小さく小さく声が零れる。
天井を仰いで は、は、と浅い息を何度も吐き出す。
唇の端から唾液が零れそうになって、ようやくごくりと唾を飲み込んだ。
「もう片手でちゃんと扱け。携帯は置くなよ」
言われて、肩で無理に携帯を耳に当てたまま 左手で幹を握った。
先端を押さえ込んでいる手が ぬめりを帯びて、擦る度にくちゃと音が鳴る。

「……今、なにが一番欲しい?」

驚いた。
目を閉じていたから、本当に目の前に中条が居るような錯覚をした。
それほどに 妖艶な声だった。

「…ぁ、…」
手は止めない。快感に酔って すぐに言葉が見つけられない。
それでも懸命に頭の中で質問の答えを探した。
何が欲しい?何が今一番欲しい…?
何で満たされたい?


「……キスが、したい…」



ぽつりとほとんど無意識にそう呟いていた。
唇が寂しい。もしここに中条が本当に居たとしたら、きっと噛み付くようなキスで呼吸を奪っているだろう。
息苦しくて 酸素が足りない頭が理性を吹っ飛ばして、そうしてあの熱く硬い背中に必死にもがくのだ。
それを思い描くと、心がたまらなくなった。

「キスがしたい…」
うわ言のように繰り返す。
電波の向こうで中条が くそと舌打ちしたのが聞こえた。
「やっぱり呼んどくんだった。これ俺のほうがヤバいな多分」
「な、にが」
「今の言葉言ってるお前の顔を想像すると それだけで結構クる。つーかなお前、欲しいものって聞かれたらここは普通キスとは言わねーぞ。意外すぎる返事しやがって」
文句を言いながらも 満足げな笑い方をする中条に、こっちまで良い気分になる。

「顔、見てなんか、言ってやらない」
「だったら言わせるまでだな」
次は覚えてろよ、との挑発に ふと口元が笑った。
高鳴るばかりの快感が 心地良い。

「…美柴、親指、引っ掛けてみろ」
「っ…ふ、ウ」
「分かるよな?」
「〜〜、っ」
「目ェ閉じんな。ちゃんと見ろよ、自分がイくとこ…」

指示を通り越して、先端に引っ掛けた指が 知れずぐりぐりと出口を虐める。
うあと言葉にならない感覚に、足が震えた。その震えは下半身を支配していく。

「ア!も、う…!」
「なんて言って欲しい…?」
「…〜」
「俺を想像してイくんだよ。俺は、お前になんて言うんだ?」
「〜〜……な、名前…を…ア、っつ」
「……………聞け。」


「……−−。」


「っ!」
下の名前は、反則だ…!

「〜〜アあ!!」

一人でこんなに声をあげてラストを迎えたのは、初めてだった。



■さぁ 思いっきり吐き出そうか(ワールズエンドダンスホール) ⇒NEXT


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