小説 | ナノ


▼ PINK CALL

■中鴇のピンク電話。自慰描写注意。



よく、人から「淡白そう」と言われる。
確かに 自分は周りより色事への興味が薄い。
グラビアアイドルの名前やAV女優の名前なんて全く知らない。
可愛い可愛くないという問題にも興味が沸かない。

異性を見て何か思うところがあるとすれば、(あの長いまつげはどうなってるんだ)とか(どうやってあんなに丸く髪の毛をまとめあげられるんだ)とか、そんな疑問ぐらいで。
男はいつだって女の事を考えている、という理論が自分には全く分からない。

女性が性欲に繋がらない、というのは おそらく男として重大な欠陥だろう。


【俺を帰せ】



身体と心は同一ではない。
いくらそうやって 興味がないと言ってみても、身体は20歳の健康体だ。

「……………」
寝入る前、ベッドの上で それとなく自分の内腿に触れる。
こうゆう時、とても嫌な想いをするようになったのは 一体いつからだろうか。

シギが居た頃は シギを想えば気持ちが込み上げてきた。
イケナイ事であると自分を諌めながらも、相手もそれにノッテくるから、余計高ぶって。
終わった後の疲労や翌日のダルさも、すべて愛しかった。

「……………」
シギが居なくなってからは、その思い出だけで自分を誤魔化してきた。
でもそれも、今は全く通用しない。ただの苦痛だ。


「……………」
重い溜息を吐いて、勝手に高ぶっている自身も手を添える。
何を想って擦ればいいのか分からない。きっとそのうち 出るには出るだろうが、どうせ気持ちのいいものではない。嫌悪感や空虚感で押しつぶされそうになって、逃げるように眠るんだ…。
そうと分かっているのに 何をしているんだか。
「……っ」
気持ちよくない。辛い。悲しい。苦しい。………痛い。
さっさと終わらせたくて、上下する手が力を加減をしない。
自棄になって、痛くても苦しくても、何度も何度も握る手を往来させる。
これじゃまるで自傷行為だ。

詰まるように息が上がる自分を 冷めた目で見る自分がいる。
「!」
一瞬、それがシギのような気がした。
思わず、は、と目を見開いて 顔を上げる。
「っ」
悪い夢を見たあとのようだった。
心臓がやけに どくどくと脈打っているのを感じる。
忙しない呼吸の音だけが 響く部屋で、額から流れる汗は冷や汗だと悟る。
まだ吐精はしていない。
握っている熱は熱く硬い。
おかしくなりそうだ。

助けてくれと、そう言葉にしてしまいたかった。


ー…ウ゛ーウ゛ー


枕もとの携帯が震えて、チカチカと光った。
急な着信に ビクリと肩がはねる。
「………………」
サブディスプレイに表示された名前に、なんてタイミングの悪い男だと想った。

「おいお前俺の鍵知らねェーか」
相手の都合など構いはしない中条の声に、若干の苛つきと…妙な安堵を得る。
ふぅと息を吐いて、壁に背中を預けた。下に何も着ていない状態だったが、電話しながら着直すのも可笑しな話だ。

「……知らない。」
「テーブルにあっただろ」
「…知らない。」
「台所…には置かねェーしなぁ」
「………………」
がさごそと物を払いのける音が聞こえる。あの汚い部屋がより一層掻き崩されていく様が 思い浮かぶ。
「……自分の部屋で何やってるんだ」
そう呆れて言ったところで、「あった」と中条が 呟いた。
「パンツの下にあった」
「………………」
呆れて何も言えない。整理整頓という言葉は、中条の辞書にはないだろう。

「で?」
中条が、そう言った。
用は済んだだろうと切ろうとしたのだが、その疑問詞に意味が分からず 眉を寄せた。
「……で?」
「俺は部屋で鍵探してたんだよ。お前は何してる?」
息が詰まった。何をしていたのか聞かれて答えられるようなものではない。
見れば、先ほどまでそそり立っていたものは 少し納まっていた。
頭の中で渦巻いていた 重い感情も、消えかかっている。

「………別に…何も」
でもきっと、この通話が終わったら また繰り返す。そう思ったら 自然と声が沈んだ。
「何も…、ね」
ふ と中条が笑ったのが分かった。

「出た時 軽く息上がってたから、一人エッチでもしてたのかと思ったのにな?」
「………………」

本当に嫌な男だ。
そして例にもれず、都合が悪くなって押し黙ってしまった自分自身にも嫌気がさす。
中条が笑みを深くしたような気がして、言い訳を考えた。

「………違う。走ってきた」
「どこをだよ?」
「……家の、近く」
「この時間に?」
「……別に何時だって俺の勝手だ」
「へええー?」
「………………」

嫌な笑みを含んだ相槌。絶対にこの男は確信を持って 問いただしてきている。
どう抗っても覆せない状況に、舌打ちしそうになった。

「まぁ どこでしようが勝手だけどな?家の外で走りながらヌイてたら露出狂だぜお前」
「っ走ってなんかしない…!」
「じゃあいいじゃねーか、オウチでイタシテタってことで」
「〜…」
言い返せなかったのは、勝てないと悟ったからだ。
…………どうしてこの男はこんなにも自分の嘘を見抜くのだろうか…。

「溜まってんならウチ来ればいいじゃねーか」
「……うるさい」
「優しくしてやるのにな?」
「………そんな気分じゃない」
「一人でヤッててよく言うぜ」
「……………勝手に身体がそうなるだけだ…」
「そりゃお前、男だからな。たまには可愛がってやらなきゃ可哀想だろ」
「…………………………」
「……………美柴?」

まただ。嫌な気分が盛り返してきた。
喉を締め上げるような苦しさに、はぁと息が漏れる。

「…………可愛がるって何だ」
「あ?」
「……どうやってすればいい」
「お前は中坊かよ。普通に何かしら想像してやりゃいいだろーが」
つーかそんなもん人に聞くな、と続ける中条に 白状した。

「…………………痛くて…苦しくて……どうしようもない…」

自分でも驚くほど、消え入りそうな声が出た。
マスターベーションなんて、こんなに切羽詰ってするものじゃないはずなのに。
………女で欲が駆られないどころか、欲の発散の仕方すら欠如しているなんて……絶望的だ。


そんなにもシギが必要かと自分で自分が怖くなる。



「……………俺を想像しろよ…」
真っ暗になった思考に落とされた声は、低く響くものだった。

「その手を、俺だと思ってしろ」
「……何言っ」
「俺とヤッてる時のことだけ考えろ。俺が言うとおりに触れ」
「…………………」
「俺以外の余計なこと考えたら、」


「イカせねェーからな」


「…………………」
それじゃ半分脅しだ。そう思ったのに、中条の提案に縋る道を選んだ。




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