小説 | ナノ


▼ あなたのためならどこまでも3

■続・中村明日美子著「あなたのためならどこまでも」パロ。結婚詐欺師中条×刑事美柴。



「……いや、…はい、そうです。漁協に本土まで船を…はい、交渉はしたんですが…」

一人の若い刑事が、今時珍しく黒電話の前の正座をして、しきりに電話の向こうに弁明している。

「…はい、それはもちろんです…。申し訳ありません…」
「…………。」
その刑事の隣には、つい先日確保された詐欺師が 退屈そうに座っている。
二人の右手と左手は 手錠で繋がっていて、刑事が受話器を置いて その場を離れなければ、詐欺師もここを動くことが出来ない。
二人はもうこの窮屈な状況にだいぶ慣れてきてしまっているのだが、詐欺師としては、そうやって自分以外に気を配る刑事の様子を見せ付けられるのは、少々面白くない。

「明日には必ず、」
神妙にそう告げる美柴の耳たぶを、中条は はむと唇で食んだ。
「ッ!」
ビク!と身体を強ばらせた美柴は、速攻で中条の頭に向けて肘鉄を突き上げる。
「!おっ、と」
ギリギリでそれを避けた中条は、キリリと睨んでくる美柴に 勝ち誇ったように薄く笑ってみせる。
「必ず中条伸人を本庁に連行します。はい、失礼致します」
美柴は畳み掛けるように早口でそう告げると、受話器を置く。
そして 手錠をグイと強く引き寄せた。
「っ痛ッ!」
今まで中条が優位にこの手錠を操っていたが、この頃は美柴もずいぶん使い方を会得している。
まるで犬の躾のようではあるが。

「〜あのなぁ、急に引っ張るのやめろよ。結構痛ぇーって」
強引に手首を引っ張られた中条が、痛い痛いと手首を庇うようにさする。
「だったら余計なことするな」
厳しい目でそう睨まれ、しかし中条はにやんと笑む。
その笑みに不穏なものを感じた美柴は逃げようと身を引くが、

「余計なことって、こうゆう事か?」
中条が正座していた美柴の足首を掴み、乱暴に引っ張りあげる。
「っ!?」
ぐらりと身体のバランスを崩した美柴は、軽々と畳の上に転がされる。
「何す、」
起き上がろうとする美柴の上に中条は覆い被さり、手錠のついた手でその口を塞ぐ。
自由の利くもう片手は、するするとスラックス越しに美柴の内腿や尻を撫でる。
「っ…!!」
美柴はむぐぐと言葉を封じられたまま、目を見開く。
中条の、妖しく身体を這う手と口を塞ぐ手を、なんとか退かそうとする。
しかし、互いの片手同士は手錠で繋がっているのだ。
この攻防戦は、圧倒的に美柴の不利である。

「まぁ、こうゆう詰めの甘いところがまた好し、っていうかな」
「〜〜〜ッ」
美柴が暴れて、ガチャガチャと手錠が音を鳴らす。
中条は気にも止めず、スラックス越しの下肢にじっとりと触れる。

「……さて。どうしてやろうか…?」
一段と意地の悪い笑みを含んだ囁きを、美柴の耳元で呟く。
耳に吹き掛かる熱い息に、美柴は咄嗟にヒクリと肩を竦めて 目を閉じる。

「刑事さーん!」
そこで階段を上がってきたのは、二人を泊めてくれた親父さん。
「刑事さーん」
美柴を呼びながら、廊下からひょっこり顔を覗かせる。
覗かれる直前で、中条は美柴の上から速やかに離れていた。
「と、犯人さーん。ごはんですよー」
「悪いな親父さん、助かる。な?」
「ッ…あぁ…」
中条があっけらかんとそう答える横で、慌てて身なりを整えた美柴が ぎこちなく頷く。

昨日から、こんな寸で止まりのお約束を繰り返している。


一階の居間に通された二人は、それはそれは賑やかな夕食に出迎えられた。
「遠慮せずに!じゃんじゃん食べてね!」
「あらあら!本当に、刑事さんも犯人さんも男前ねー!」
「お客さんなんて滅多にないから、たくさん作っちゃったわよー!」
いつの間にか二人の存在は島の女性達によって 広められ、ちょっとした宴会のようになっていた。

「……有難うございます」
「へぇー、美味そうだなぁ」
美柴が戸惑いつつも 食事を受け取る横で、中条は女性受けの良い表情で褒め言葉を並べる。
いつの間にか中条の横に座っていた子供が、不思議そうに手錠を見つめ、中条を見上げる。

「ねーねー、おじちゃんはどうゆう悪いことしたのー?」
「っ…おじちゃん……。さぁな?どんな事だと思う?」
一瞬、ヒクリと眉が引き攣ったが、中条はなんとか人の良い面を維持する。
「サギとか?」
「もしかして殺人!?」
「密室殺人!?フナコシ来ちゃうわよっ」
「こんな男前な犯人さんなら殺されてもいいわぁー!」
女性達は目をハートにして、中条を取り巻く。
きっとこの島には珍しい若い男に、舞い上がっているのだろう。
「ねぇねぇ刑事さん!正解は!?」
その時、美柴は どこか寂しい気持ちで 答えを言った。

「―…窃盗です。ただのコソドロです。ケチな男ですから」

嘘だった。
その嘘に、中条ははてと美柴を見る。
しかし美柴は中条のほうは一切見ずに、黙々と食事を進める。

「………、」
中条はそんな美柴に、その場では何も言わなかった。

「泥棒さんだったの!?」
「何を盗んだの!?ハート!?「あなたのハートを盗んだぜ」みたいな!?」
「きゃー!」
「・・・・・。」
女性たちは勝手な妄想で盛り上がって、ずいぶんと楽しそうだった。



「刑事さん達、お風呂はどうします?」
食事を終えると、女将さんが二人の為に洗面用具を揃えてくれていた。
「それ 繋がってるからお二人一緒ですよね。村のはずれに温泉があるんで、もし良かったらそこに…」
「へぇー、何でも揃ってる島だなぁ」
「…手錠は外して、別々に入ります」
洗面用具を受け取った美柴が、きっぱりとそう告げる。
女将さんと中条が 同時に目を見張った。

「え。いいんですか?」
「は?いいんデスか?」
「…いいんです」
そして、チラリと中条を見上げた美柴は 声を小さくする。

「…どうせあんた、俺から逃げる気ないんだろ」
「逃げるぜ?」
今度はきっぱりと、中条が告げる。
「そりゃあもう振り向きもせずに全力でお前から逃げる。手錠外れたら。」
「・・・・・。」
堂々たる宣言にパチクリと目を瞬かせて 言葉を失う美柴の前で、女将さんは笑った。

「温泉、場所お教えしますね」




その温泉は、見事な月夜の下にある 露天風呂だった。

「はぁーあ、ようやく一息ついたなぁ」
「……連行中に言うセリフじゃない」

二人は石で囲われた広い湯船に、裸になって浸かっていた。
手錠は繋がったままであるが、美柴は二人の間に大きな岩を挟んで 中条から見えない位置に腰を降ろしている。

中条は振り返って、岩越しに見える美柴の頭に声を掛ける。

「つーか、そんな露骨に避けるのって かえって俺を意識してるってことだと思うんだがな?」
「……うるさい」
美柴の可愛げのない反応に、中条は面白がって 岩の向こうに身を乗り出す。
「せっかくの旅行、お体洗って差し上げまショウか刑事さん?」
と、手錠のかかった手で美柴の肩に触れる。
「…〜うるさい。旅行じゃないって言ってるだろ」
少し身体をビクリとしつつも、頑なに こちらを見ようとしない美柴に、中条はふと笑う。

「……なんでさっき、嘘ついたんだよ…?」

悪ふざけではなく、しんと静かな声で問う。

「…言えば良かったじゃねぇーか、結婚サギだってよ」
「…………。」
美柴もそれに応えて、静かな声を返した。

「…女性が多かった。場の空気を、壊したくなかった…」
「お前は優しいな。あの人らにも、…俺にも。」
「………。」

少し、重い沈黙があった。

「―…勘違いするな。俺はあんたを、軽蔑してる」
「………。」
湯気の向こうに見える美柴の表情は、どこか無理をしているように見えた。

「あんたにはいちいち がっかりさせられる。もううんざりだ」
「……へぇ?」
詐欺師は知っている。
この刑事がいつもより少し早口になるのは、嘘をついている時だ。

「もう二度と、俺に余計なことは一切言うな」

そして、嘘をつく時、この刑事は相手の目を見ることが出来ない…。

「………美柴」
すぅと、中条は岩を回って 美柴の傍に寄る。
美柴は近づく中条の気配を察して、顔を背けた。

「俺はお前のこと、好きだぜ」

美柴から返事はない。
でもその表情が少し戸惑ったのは、見えずとも感じられた。

「好きだ…」
「…〜結婚サギが、何言ってる」
「……そうだよな…」
「………〜」
柄にもなく沈んだ声色の中条に、美柴は更に困ってしまう。
本当はこの場から逃げてしまいたいぐらいだ。
でも、繋がった手錠がそれを許さない。
なんて皮肉だ。
中条を逃がさない為にこの手錠を掛けたのは自分なのに、今は自分の方が中条から逃げられなくなっている。

ならば、外してしまえばいいのに……?


「……俺は、」
誰にともなく、中条が静かに話し出す。
「よく分かんなかった。人を傷つけるってことが…。女の心を掴んで金を出させて…それをいかにスマートに要領良くやるか。そんな風にしか考えてこなかった」
「…………。」
確かに、中条の被害にあった女性は皆中条に心底惚れていた。
中には、騙されているかもしれないと思いつつも 抜け出せずにいた女性もいた。
中条は本当に、人を操るのが上手いのだろう。

「悪ィーことしてる自覚はあったけどな。でも、俺は相手に悪いと思ったことは一度も無かった」

なんて薄情な男。

「罪悪感なんて、微塵も無かった」

最低最悪な男だ。

「………でも、今はなんとなく分かる。」
「…………。」
美柴は吐露する中条の横顔を、ただ静かに見遣る。

「愛情や信頼で人を裏切るのは、この世で一番の罪悪だ」

そうして、中条は独り、酷く諦めたように自嘲的に笑う。

「そんな前向きな感情、俺には生まれつき無ぇーんだと思ってた…。生まれつき無いなら、分からなくて当然だってな…」

その笑みを見ているのが辛くて、美柴は少し言葉に詰まる。
思わず唇を噛んで俯いてしまうと、それに気がついた中条が取り繕うようにふといつもの薄笑いに変える。

「そんな顔すんなよ。言っただろ、今はなんとなく分かるんだよ」
と、俯く美柴の頬に手を伸ばす。
「…多分、お前がいるからだ」
「……〜」
その手に導かれるままに顔を上げれば、キスされるのだと分かる。
だから美柴は意地になって 顔を上げなかった。
でも、その顔が少し赤くなっているのが、中条には見えている。

「…なぁ、どうしたら信じてくれる?」
ぎゅっと後ろから美柴を抱きしめる。
縋るような、懇願するような抱擁に 心が揺らぐ。
けれど美柴は、静かに応えた。

「…裁きを受けて 罪を償え」

中条はその言葉に、一瞬だけ息を飲んだ。
「……、」
腕の中の美柴は、思い詰めた重い面持ちで じっと俯いている。

「…なら、そうする。」
「!?」
まさか受け入れるとは思っていなかった美柴は、ガバと中条を振り返る。
中条は小さく笑っていた。
「お前がそう言うならそうする」
「……本当か?」
「あー…いやでも信用ならねぇーなぁ」
「…?何が?」
小首を傾げる美柴に、中条はやれやれと夜空を見上げてボヤく。

「俺がムショ暮らししてる間に、お前がちゃんと俺を待っていられんのかどうかがなぁ」
「……待つって…」
「そうゆう確かな希望?みてぇーのがねぇーと、マズイ飯食っていく覚悟が出来ねぇーなぁ」
「…そんなの、」
「俺が出所しても、お前は俺なんかすっかり忘れて、どっかの女 二,三人とイチャイチャしてんじゃねぇーの?」
「ッ、そんな事しない…!」

まるで人を女たらしのように表現する言い様に、美柴がむっと中条を見やる。
ようやく確かに交差した視線に、中条はそっと笑んで 囁く。

「…じゃあ、証拠みせろよ」
「……証拠…って……」

ゆっくりと、中条が美柴の頬を捕らえる。
確かめるように覆われる唇に、美柴は内心しまったと後悔する。
また中条のペースの持って行かれてしまっている。

「ッ、ん…」
でもこのくちづけを、受け入れてしまう自分がいる。
もっと深くと、強請ってしまう自分がいる。
気がつくと、誘うようにその舌を追いかけてしまっていた。

チャプ。
湯の水面が、中条と美柴の動きに揺らされて 音を立てて波立つ。

中条の指が、くにくにと両乳首を押しつぶして弄る。
小さく起ち上がってくる二つの感触を思い知らせるように、時折ぎゅっと強く抓る。
その度に ビクビクと美柴が背筋を強ばらせる。
「〜ッ!!んぁ、……ッん、」
美柴の腰が引けて、愛撫から逃げようとした。
中条はそれを押さえつけ 下肢に触れる。

もう充分固くなっている熱を握って、擦り上げる。
湯の中で行われるそれに、美柴が身悶えて懸命に唇を噛む。
「ッ〜」
「なぁ、お前どんどんいやらしくなるな…」
「〜う、るさ…!んんッ」
耐え切れずに溢れる美柴の吐息に、中条は思わず煽られて加減を失ってしまう。
バシャバシャと、水面がより一層激しく音を立てる。

「っ!?」
あ、と声を上げる間もなく、くちゅと一本指が 中に侵入した。
「な、あ、…やッめ…!!」
「一本だけだろ…?」
その一本が根元まで全部収まって、内壁をくすぐる。
快感と呼べるのかどうか分からない奇妙な熱い感覚に、美柴は嫌々と首を横に振って耐える。
眉をきゅっと寄せて閉じた瞼と、薄く開いた唇から溢れる吐息。
中条はその表情をまじまじと覗き込んで、見つめる。

「あー…ったく、なんつー顔してんだよお前はよ…」
「ッあ、は…〜〜ッ」
美柴はなんとかして繋がっている手錠を引っ張って、中を弄る中条の手を遠ざけようとするのだが、中も外も追い上げられては どこに力を入れればいいのか訳が分からなくなる。

「…二本目も、イケそうだな」
「っ!無理、だ…っ」

中条の呟きに、美柴はハッとして顔を上げる。
そして 驚愕に目を見開いた。

「な!?」
中条さん、と叫びそうになった。

中条の後ろ、自分たちの浸かる湯船に、

「うきーー」

猿の大群が身を寄せ合って、浸かっていた。

「な!?…な、に…!?」
「まぁある意味、自然じゃね?コイツらも俺らもよ」
驚きで言葉を失っている美柴をよそに、少し前から猿に気がついていた中条は余裕綽々と笑う。

「まぁ良いじゃねぇーか、猿だし。続きしようぜ」
「良くない…!!しない…!!!」

ゲシ!と中条の顎に、美柴の蹴り上げた見事な足先が、直撃した。


「うきー」



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