小説 | ナノ


▼ 君と僕と歌と、



俺はツインのボーカロイドだ。
相方であるシギは元主人に焼却処分されてしまった。
ツイン仕様のボーカロイドは、二体で一つの歌を完成させる。
相方を失い 歌を歌えなくなった俺は、その元主人に散々遊ばれたあげく、アンドロイドとしてあるべき処分をされず、資源ゴミの廃棄ステーションに投げ捨てられた。
そこで見知らぬ少年に拾われ、ボロボロだった回線や機能を修理されたのが、少し前の話だ。


斉藤一雄。
それが、今一緒に暮らしている人間の名前である。
歳は17か18。暗闇でも目立ちそうな金髪に 俺と頭一つ分は高い長身。
眼鏡をしているが、視力がどの程度なのかまでは知らない。
両親とは幼い頃に死別。それからずっと、この街の一角で一人暮らしをしている。
飼っている犬の名前はジープ。スピッツと雑種の混合種で、白くもふっとした毛並みをした中型犬である。
ジープは斉藤が昔資材廃棄場を巡っていた時に見つけた捨て犬で、その時は瓦礫に足を挟まれて酷いケガをしていたという。
今はそのケガはすっかり良くなって、聡く賢い番犬として いつもこの小屋の玄関口に待機している。

「わんっ」
ベッドに座り、今までの事を ぼんやりと思い返していると、いつの間にか足元に寄って来ていたジープが俺を見上げて一声鳴いた。
ゆっくりとその頭に手を伸ばし、もしゃもしゃと毛並みを撫ぜてみる。
「くぅん」
ジープは少しだけ切なげな声を上げて、慰めるように俺の手を舐める。
俺があまり快くない記憶を遡っていたことが、ジープには分かるのかもしれない。
「…平気だ」
小さく、そう応えてみる。
もう何処にもシギは居ない。けれど、同じようにあの主人もここには居ない。
あの地獄に比べれば、この生活はとても穏やかで 暖かい。

「……昼、だな」
そろそろ、この小屋の外で故障中の大型テレビと格闘している斉藤が戻ってくるだろう。
あれを廃棄場から担いで持ち帰ってきた斉藤には心底呆れた。
なにせ、この狭くボロい小屋では そのテレビは規格が大きすぎて 玄関を通らなかったのだ。
おかげで斉藤はこの炎天下の中、外で一人 修理作業をしている。

「トキさんは色焼けしちゃったら大変だから、家ん中に居て下さい。俺、すぐコイツ直しちゃうんで!」
明るい笑顔でそう言われたが、暑さや日射に弱いのはむしろ人間のほうだ。
先程チラリと窓から様子を見てみたら、流れる汗をTシャツで拭いながら 懸命に何か回線を弄っていた。

「………。」
アンドロイドは食事を取らないし、ボーカロイドである自分にはコック機能は無い。
用意できるのはせいぜい冷蔵庫にある飲料とインスタントラーメンぐらいだ。
それでも、狭いキッチンに立ってみた。
「………。」
自分に出来ることを、探したいと思った。

…next








[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -