小説 | ナノ


▼ 君と僕と歌と、

■美柴アンドロイド+斉藤メカニック少年パロ。
前半です、かなり暗いです。お気をつけてー(ぺこり



『これはもう使い物にならないな』

ある一体のアンドロイドが、そう蔑まれ 焼却処分に出された。
彼はツイン仕様のボーカロイドだった。
最新型ボーカロイドは、定期的な充電や電池パックの入れ替えなどの手間が無い故に多くの種類が出回っていた。
ツインと呼ばれるボーカロイドは二体で一つの歌を完成させるアンドロイドで、基本、相方のボーカロイドと電力を分け合って活き続ける。
しかし、この日捨てられたのは 一体だけ。

『反抗的な意思が
あるボーカロイドなんて、故障もいいとこだ』

廃棄場に積み重なった廃棄アンドロイドの山。
彼の横に横たわるのは、同じく主人に捨てられたメイドロイドだった。
勤勉に動くはずのその手足は、ゴミを処分する為に起動している別のアンドロイドによって、今、ハンマーで砕かれている。
次は自分の番だ。
ボーカロイドは遠くでそう思いながら、静かに目を閉じた。

大量に捨てられたアンドロイド達は そうやって手足を破壊されてからベルトコンベアーに載せられ、焼却炉の中へと捨てられていく。
彼らにはもう、逃げる術はない。

(あぁ…)

炉の中、灼熱の業火に嬲られて、皮膚を形成している素材が溶けてゆく。
蝋のように流れていくそれが 彼の表面を焼く。
パチパチと回線が焼き切れていく音を聞きながら、そのボーカロイドは片割れの名を想った。

(……ごめんね、トキ…)

綺麗に整った瞳の造形から、トロリと 涙のように樹脂が溶け落ちた。


━━━━


俺はツインのボーカロイドだ。
相方であるシギは、先日焼却処分に出されてしまった。
感情がある事が、バレてしまったせいだ。
一人では歌えない。
俺がそう主張しても、主人は唱えと強要する。

ほの暗い寝室。
主人の上には艶かしいメイドロイドが嬌声を上げて腰を振っている。
彼女は俺とシギが此処に買われてから三体目のメイドロイドだ。
おそらく彼女もすぐに捨てられる。
最初は端整だった口元も下肢も、今や主人の白い体液でぐちゃぐちゃだ。

何度見ても、この光景には吐き気を覚える。


「唱え」
俺とシギは、主人がメイドロイドを犯す横で何度も歌を歌ってきた。
「お前達の歌は本当に良い歌だ」と上機嫌な主人に褒められても、演技めいた喘ぎ声の中ではまったく嬉しくなかった。
それでもシギが居れば それだけで救われた。
「なんでこんな主人に買われちゃったんだろうね。本当に、トキとツインでなければ こんな所、一時だって居たくないよ」
シギがそう言って 俺の手を握る。
それで伝わるのは電力だけじゃなかった。
「……俺も、シギが居なかったら、こんな所では歌えない」
独りじゃない。
それだけが、俺達にとって唯一の活きる意味で、歌う意味だった。
シギは安心したように 暖かく笑う。

「ずっとずっと、一緒にいよう」

俺はその言葉に頷いて、手を握り返した。

もう、俺の支えはどこにも無い…。


「―…唱えと言ってる!」
棒立ちのままの俺に痺れを切らした主人が、俺を思い切り殴りつける。
殴り返したいのに、シギの仇を打ちたいのに、アンドロイドのセーフティープログラムがそれを許さない。
こんなにも胸が痛くて苦しいという感情があるのに、その感情に合った行動を起こせない。悔しくて、悔しくてたまらなかった。
「役立たずが!」
何度も何度も蹴られて それでも何の抵抗も出来ず、俺は床に転がされていた。
「口を開けろ。歌えないなら別の事に使ってやる」
髪を掴まれて、項垂れる顔を無理矢理上げさせられる。
主人の晒し出された下肢が目前に見えた。
止めてと抗う唇に 人間の体温が押し付けられる。
アンドロイドは 主人を殺すことも、自分を殺すことも出来ない。
それでも俺は 頭の中で、今すぐにでも回線が切れることを、死んでしまうことを強く強く願って ぎゅっと目を閉じた。

『どうしてこんな主人に買われちゃったんだろうね…』

主人の荒い息遣いが聞こえる。
歌声を響かせるはずの喉の奥に、まとわりつく体液を浴びる。
嬲られる俺を見て、ベッドの上のメイドロイドは ケラケラと壊れたように笑っていた。
終わりの見えない悪夢が、そこに広がった。




「―……」
あれからどれぐらい経ったのか分からない。
気がつくと、俺は道端の資源ゴミの収集ステーションに倒れていた。
回線が鈍いのか、身体は動かず 視界映像の乱れも酷い。
服や皮膚も白い体液や唾液で汚れているのが 感覚で分かる。
「…………。」
ようやく、俺は捨てられたのだ。
目の前に広がる曇空を見上げたまま、ただひたすらにあの地獄が終わったことに安心していた。

主人は、シギを捨ててきた時 金がかかったとボヤいていた。
アンドロイドの破棄には費用がかかる。
だから 今度はこうやって資源ゴミに放り捨てることにしたのだろう。
さすがに姿形がボーカロイドのままでは 資源ゴミには回収されないかもしれない。
もしかしたら ずっとこのまま放置される可能性だってある。

「………」
でも、電力を分け合える相手が居ない今、きっといつか俺も寿命を迎えるはずだ。
この世界から消えることが出来るのなら、何処で最期を迎えたって構わない。
(……やっと終われる…)
荒れたノイズが走る視界を ゆっくりと瞼を閉じて遮る。

(………シギ…)

壊れかけの捨てられたボーカロイドの白い頬を、灰色の空から降る雨が まるで「起きて」とでも言うように 叩き始めていた。



■何も聞こえない 何も聞かせてくれない(壊れかけのRADIO)



「あちゃー、結構降ってきちゃったなぁ」
ガシャンゴションと背負ったリュックの中身を揺らしながら、一人の少年が瓦礫の山を下っている。
夕方になって降り出した雨は徐々に強くなり、辺りは薄暗い空気を漂わせている。
「傘持ってくれば良かったな」
少年はくいとメガネを上げてから、止みそうにない雨足に溜め息を吐く。

この少年は、毎日道端にある資源ゴミの収集ステーションを巡り歩き、金になりそうな資源を拾い集めている。
自分の年齢は正確には知らない。確か17か18か…、とりあえず両親と死別して孤児となってからは 10年以上の月日が流れている。

幼い頃から手先が器用だった少年は、孤児となってしまってからは 壊れてしまった電化製品の修理や中古販売で生計を立ててきた。
このゴミ収集場を巡るのも、彼にとっては仕事の内である。

今日の収穫はあまり良くなかった。
それでも、家電機器の修理に使えそうな部品はいくつか見つかった。
これで家にある壊れたレンジや冷蔵庫も 売りに出せるだけの代物にはなるだろう。

(今日はもう帰って、とりあえずレンジだけ仕上げちゃおう)
先日 顔馴染みの老人から頼まれた家電修理。
本当ならきっと新しいものが買えるだけの余裕はあるはずなのに、老人は自分を気にかけて 修理を依頼してくれた。
そのささやかな気遣いや優しさが、胸に嬉しい。

思わずその喜びを思い出して、気持ちが浮上してしまう。
浮き足立った少年は瓦礫の上から ひょいと地面に軽く飛び降りる。
「あっ!」
ベシャリ。
気がついた時にはすでに遅かった。
少年が着地したのは水溜まりの上。ボロボロのスニーカーが水に浸かり、中の靴下まで濡れてしまった。
「あーもー…やっちゃったー」
あーあーと自分に呆れながら、少年は泥まみれの足元を見やる。帰ったら修理よりも先に洗濯をする羽目になってしまった。
少し落ち込む気持ちのまま、少年はやれやれと顔を上げる。その視界に飛び込んできたものに、一瞬、身体が固まった。

「…え!?」

地面に放置されている資源ゴミに紛れて、人が、倒れていた。

「えぇええ!?ちょ、え!?」
少年は慌てて 倒れている身体に駆け寄る。
近づいてみて それが自分と同年代ぐらいの若い男であると分かる。
「え、な、何…!?」
今までも こうしてステーションで倒れている人間は何度か見たことがある。
そのだいたいが、おそらく公に出来ない死を遂げた、原型の危うい破壊された死体だった。
しかし今足元に倒れているコレは、そんな欠損も腐臭もしない。
少年の知る死体とは違い、彼は死んでいるようには 見えなかった。

「あの…だ、大丈夫…っス、か…?」
一応 脇に屈みこんで そっと声を掛けてみる。
反応は無い。死んでいるようには見えないが、しかしやはり息をしているようにも見えない。
目を閉じていても分かるほど整った顔と、冷たい雨を受け止める白い肌。
(……人形みたいだ…)
そう思いながら、少年は恐る恐る彼の頭から爪先までを見やる。

「…、」
雨に流しきれない白い生々しい体液が、着乱れた衣服や肌にこびり付いているのが分かった。
こうゆう姿光景なら、裏路地でよく見掛ける…。
「………。」
散々嬲られて、捨てられた娼婦や売春の末路と同じだ。
なんとも言えない重苦しい気持ちが込み上げる。
少年は、ゆっくりと 倒れている男の身体に触れた。
「………。」
脈を見ようと 首筋に指先を当てる。
ひやりと冷たい皮膚の感触は、やはり生きている人間のそれでは無かった。
どこかの狂人に犯されて、殺されてしまったのだろうか…。
遣る瀬無い気持ちを抱え、少年は指を離す。
「…ん?」
その首筋の裏、うなじに、何か書いてあるのが目に止まった。
濡れそぼった紅い髪を少し退かして、掘られている文字に目を凝らす。

「…え!?」

そして、少年は今日二度目の驚愕に目を見張った。

「………ウソ。これ…ボーカロイドじゃん…」

歌を歌う事で人間に尽くす為に作られた、愛玩用アンドロイド。
大企業や富裕層でなければそう簡単には買えないタイプのアンドロイドだ。
それがどうして、こんな所に、こんな姿で行き倒れてる…?
そもそもアンドロイドの破棄には決められた条例があるはずだ。

「……………。」
ザァと強くなる雨足の中、少年はぼう然とアンドロイドを見下ろした。
壊れかけの捨てられたボーカロイドは、未だ、目を覚ますことなく雨に打たれている。

閉じられた目尻から伝う雨粒が 少年にはこのアンドロイドの流す涙に見えて、切ない想いは強くなる一方だった。


━━━━



目を覚まして一番最初に飛び込んできたのは、ガラクタの山だった。
「………?」
けれど、そこは自分が倒れていたはずの屋外投棄ステーションではない。
ゆっくりと視界をさ迷わせて、ボーカロイドは様々な異変に気がついていく。

まず、ノイズが走っていた視界映像がクリアになっている事。
身体の節々の動きが楽になっている事。
自分がボロい小屋の中、ベッドで横たわっているという事。
着ている衣服が サイズの合わないラフなものに変わっている事。
そして……

「お!やっぱこっちのヒューズの方が正解だったな。これで一応完成!」

10代後半と思える若い男が、床に置かれた電子レンジの前に胡座で座り込み、満足げに頷いている事。

(……?)
自分が置かれている状況が把握出来ず、ボーカロイドはゆっくりと身体を起こした。
ベッドの軋む音に、こちらを振り返った男は「あ!」と声を上げる。
慌てて立ち上がると、アンドロイドを覗き込むように見て駆け寄ってきた。

「動けます?どっか動き鈍いとこ無いっスか?てゆーか 視界どうっスか?俺アンドロイドの回線なんていじった事ないから結構勘で修正しちゃったんスけど。あー!ちょっと待って!俺別に怪しい奴じゃないっスから!!」
畳み掛けてくる男の様子に、思わず身体を引かせると 男は懸命に両手を上げて首を横に振った。
不審感が拭えず、アンドロイドは微かに眉を寄せて男を注視する。
あの主人よりも身長が高い人間。
鮮やかな金髪にメガネを掛けた、至って健全そうな爛漫な少年に見える。

「……修正…?」
少年の言葉にアンドロイドがボソリと呟くと、少年は頷いた。
「えーっと、資源ゴミの収集場で倒れてたんですよ?記憶とか、ちゃんとメモリー残ってますか…?」
「…。」
アンドロイドは何も応えずに 少年をまるで睨むような目力で見上げ続ける。
その視線に少したじろいだ少年は、困ったように笑って カリカリと頭を掻いた。
「俺、家電とかメカを修理して売ったりとかしてて、一応機械には強いんスよ。で、アンドロイドも……直せないことはないかなぁ〜なんて思ったりして。でも良かった!その様子じゃ、深刻なバグとかエラーは無さそうッスね!」

「―…俺の事も売るつもりか」

「…え?」
途端、アンドロイドの空気が刺々しいものへと変わった。
少年は ぽかんとアンドロイドを見下ろす。
「…どうして修理なんてしたんだ。あのまま、終われるはずだったのに…」
切望した世界の終わり。それがこうも簡単に奪われてしまった。
アンドロイドが人間に高値で売買されている事は知っている。
見るからに貧困げな少年だ。
きっと運良く手に入れたアンドロイドで一攫千金を願っているのだろう。
また、地獄に放り込まれてしまう…。相棒も無く、たった一人で…。

もう、歌うことすら出来ないのに…。

静かな声の中に、隠しきれない失望や憤りの感情が篭ってしまう。
「〜また別の人間の玩具にされるなんてごめんだ…!」
堪えるように、ぎゅっと強く拳を握った。


「……余計なこと するな…」
俯いて 掠れるような声でそう言ったアンドロイドは、少しだけ肩を震わせていた。
それが単純な悲しみではないことは 少年にも悟れる。
「………。」
少年から、ふっと 笑顔や穏やかさが消えた。
深刻な表情で ゆっくりと言い聞かせるようにアンドロイドに説く。

「…もし、あのまま俺が放置してたとしても、きっと別の誰かが同じことしたと思いますよ」
「……何?」
ギロリと睨んで顔を上げたアンドロイドに、少年は物怖じせずに真実を並べる。
「確かにアンドロイドなんて、スゲー金持ちにしか買えないし、ぶっちゃけ金になります。だから多分、そうゆう業者に見つかってたら転売されてたと思う」
「…お前だってそうだろ」
「違います。俺、金儲けの為にアンタを直したわけじゃない」
アンドロイドは そんなのは詭弁だとでも言うように少年からふいと顔を背け、小さく溜め息を吐く。
それでも少年は アンドロイドを見つめ、言葉を続ける。

「その型番、…ツインのボーカロイド、ですよね?」
ピクリとアンドロイドの指先が引き攣った。
「色々調べてみたけど、高性能型のアンドロイドだから 基本的に充電とか要らないし、ツインで揃ってたら半永久的に活きれる。でも、一体でもかなりタフな作りになってるんスよ。だから、……あのまま倒れていても、トキさんは死ねなかった。」

(トキ)

自然と告げられた名前に、アンドロイドは目を見張る。
少年が 照れたように小さく笑う。
「型番の横に名前も掘ってあったから。」
そうしてベッド脇に重なるコードの束の中から、一つの部品を手に取り アンドロイドに見せる。
「…これがトキさんの中にあった心臓部。ちっちゃいでしょ?」
「………。」
「この中に組み込まれたシステムが、トキさんの自由とか感情を縛ってた」
「……縛るって…セーフティープログラムの事か?」
「そうです!」
力強く頷く少年に、唖然としてしまう。
「でも俺、コレ、取っちゃったんです」
はい と渡されたその部品を、思わずまじまじと見つめてしまう。
手の平に収まる小さな部品だ。
こんな小さなモノに 自分が支配されていたとは、知らなかった…。

「……そんなの…取って、平気…なのか?」
自分の中身なんて興味も無かったのだが、思わずそう聞いてしまう。
セーフティーの無いアンドロイドなんて、聞いたことがない。
これでは、つまり今の自分は気に入らないと思えば いとも簡単に人間に反撃出来てしまう。危険極まりない。
しかし少年は そんな危機感を一切見せずに、えへへと嬉しそうに笑う。

「大丈夫ですよ。だって、今トキさん普通に動いているし!」
「……………。」
「実は俺、コレが一番怖かったんスよねぇ〜。メインプログラムの書き換えなんてしたら メモリーとか全部吹っ飛んじゃうんじゃないかと思ってさ」
「……全部デリートした方が、都合良かったんじゃないか…?」
真っ白な状態のアンドロイドなら、人間の好きなように調教しやすかっただろうに。
…そして自分も、自分が何者なのかを忘れることが出来たのに…。
暗にそう含ませた言い方をすると、少年はちょっと怒ったような顔をした。

「…それって、自分がツインボーカロイドだったって事も、忘れて良いってコトっスか」
「………」
「…大事な相棒さんとか、居たんじゃないんスか。それもぜーんぶ、俺にデリートして欲しかったってコト?」
「ッ……」
ぐっと言葉を飲んで応えないアンドロイドに、少年の方が折れて 一つ息を吐き出す。
そして、少年は後ろに並べられた家電製品や電子機器を振り返る。
古い型ばかりが集められている。
けれどどれも綺麗に磨かれて、新品を大差ない見栄えだ。

「俺は…まだ動けるのに「はいもう用済み、お疲れさん」なんて…言いたくないだけっスよ」
「………。」
暖かい視線で 機械を見る少年の横顔を、アンドロイドは盗み見るように見つめる。
よく見れば、少年の指先はオイルやサビで汚れ 傷ついていた。

(この人間は、何だ…?)
自分が知っている人間は、あの主人だけだった。
どんな姿形であれ、所詮は自分達は機械だ。
唱えと言われれば唄わなければならない。
反抗することは許されない。
人間の思うがままにされるだけの 人形。

「トキさんだって、まだまだ全然生きてるじゃないッスか!だから、終わりたいだなんて、言わないで下さい」

生きている?
……その言葉に酷く違和感を覚える。

「……俺は、一人では歌えない…」
ツインだった自分は、相方がいなくては歌えない。
歌う為に作られたアンドロイドが 歌えない。
それは、存在価値を失ったということだ。
いくら視界や動作が修理されても……

「役立たずだ」
主人に言われた言葉を、自分で繰り返す。
「だから、…修理されても意味がない。何処かに売りに出すつもりなら、ボーカロイドとしては使い物にはならない。メモリーはデリートしてもらったほうが」
「だーかーら!!」
痺れを切らした少年が、突然アンドロイドの言葉を遮って大きく声を上げた。

「俺トキさんの事、どこにも売ったりしないし!!まだ動けるんだし、役立たずなんかじゃないって言ってるじゃないっスか!!」

急な勢いに押され、アンドロイドは目を丸くして少年を見上げる。
不思議そうなその表情に、少年はドンと自分の胸を叩いてみせた。

「一人で歌えないっていうんなら、俺が一緒に歌います!!それでどうだ!!」
「………何、言って」
「俺トキさん直す為にいっぱい調べモノして、いっぱい悩んで、いっぱい考えたんスよ!?捨てられたアンドロイドなんて直したら突然襲いかかってきたらどうしようとか、どっか回線間違えて取り返しつかないエラーとかになっちゃったらどうしようとか、もう、いっぱいいっぱい考えて、」
溜め込んでいたものが決壊したのか、少年は息もつかせぬ畳み掛けを始める。
「それでもきっとこの人は綺麗な歌を歌うんだろうなって!そう思って頑張ったんです!!」
「…ッ、だから、俺はもう歌えな」
「歌えます!!!」
「〜…何を根拠に」
「根拠なんか無いっスよ!!でも、とりあえずグダグダ言ったってトキさんは俺に直されちゃったんだから、もう覚悟決めてひとまず此処に居りゃーいいんスよ!!」
「……、」

言葉が無い。
やっぱり、人間は自分中心で、身勝手で、…………だけど、

「…………俺はセーフティーを抜かれてるんだろ」
「そうっスよ、俺が取っちゃいましたからね!」
「お前が寝てるうちに襲ったり、逃げたりするかも知れないぞ」
「…襲うのは勝てそうにないんでご遠慮頂きたいッスけど、逃げたかったら逃げて下さい」
「………。」
「トキさんはもう誰の所有物でもないんスよ。だから、無理矢理歌わされたり、無理に人間に尽くさなくてもいいんです」
「…………」
「俺はトキさんにヒドイ事は絶対しない。約束します。」
あの主人とは違って、何故か聞き入れられる我侭だ。
この人間は、何なんだ…?
穏やかに微笑まれ、アンドロイドはどうしたらいいのか分からずに俯いてしまう。

「……歌わないから、捨てられたんだ…。一人にさせられた…」
「……うん…」
「ボーカロイドなのに歌わないなんて、邪魔なだけだろ…」
「きっと歌いたくなったら、いつか歌えるようになりますよ」
「…………。」

何の根拠も無い、少年の未来予想。
それがとても魅力的で、手を伸ばすのには少し怖い。

でも、このまま逃げ出して 一人でさ迷い歩いても、こんな暖かい未来はやってこないだろう…。
あの地獄をまた味わうぐらいなら……この少年をほんの少しだけ……

「…あー…出来ればその時は、俺が傍に居る場所にして欲しいっスけど…」
ボーカロイドが黙り込んでしまうと、少年は少し寂しそうに笑う。
「でも、俺トキさんの歌は絶対に綺麗だって信じてるから」
「………勝手にハードルを上げるな」
「…へ?」
ポツリと呟かれた言葉に、少年がきょとんと目を丸くする。
顔を上げたボーカロイドは、じっと少年を見て 言い切った。

「お前が勝手に俺を直したんだ。セーフティーが無いこと 忘れるな」

なんともアンドロイドらしくない物騒な言葉に、少年は ははと声に出して笑った。
力強く頷いて 敬礼してみせる。

「肝に銘じておきます!トキさん!」
「……〜腕が動きにくい」
「はいはい、回線ズレちったんすよ。まだ安定してないみたいですね、直しまーす」

壊れかけのアンドロイドは、人間にむーと心無しか不機嫌な様子で腕を差し出す。
返事をした人間は、とても嬉しそうに笑って、アンドロイドの手を握った。

「ずっとずっと、一緒にいましょうね」
それは、シギが誓った言葉…。
けれどあの誓いは無情にも、主人に砕かれた。
少年の明るい笑顔を見て、少しだけ不安になる。
ずっと、なんて……

「…そんな約束してない」
「えー俺が直したのにー」
「直してくれなんて言ってない」
「…もう!素直じゃない!!じゃあ腕も診ませんよっ」
「………セーフティーって外れると具体的に何が出来るのか試してみても」
「嘘です直します直させて頂きます…!!」

でも、一人でいるより、ずっと心強い。


■本当の幸せ教えてよ (壊れかけのRADIO)

どっちが主人なんだか分からなくなってくる関係ってことで(笑)
とにかく、斉藤は自己紹介をするべきだったよねww

…next後日談→







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