小説 | ナノ


▼ 黒い予感

■注意事項■
このシリーズは生徒中条×教師美柴を基本とした学園パロディーです。
中条くんは留年中の我侭で規則破りな問題児。
美柴センセーは学園OBで訳ありの無感心教師。
思いつくままに書いていますので、各話の時系列が定まっておりません。
なので中条くんと美柴センセーが急に仲良くなったり、仲悪くなったりします。

今回のお話は久保時寄りです(現3p)

どうか寛大なお心で楽しんで頂ければと思います。








「おいで、ミノル。」
その一言とその姿だけで、時任はその場から駆け出した。




(…何処だ?)
美柴は特別棟の廊下で辺りを見渡した。
「……。」
ついさっきまで追いかけていた時任の姿が見えていたのに、途中階段で足を取られてしまったスキに 呆気なく見失ってしまった。
……時任がこんなに足が速いとは、知らなかった。


それはつい今しがた。
時任と久保田は 二人してその両腕いっぱいにシワだらけのワイシャツを抱えていた。
「うーん、ただの洗濯だったんだけどねぇー」
「だから!これはあの洗濯機がいけねぇーんだって!」
その二人を 呆れ顔で見やる、美柴と中条。
「……ボタン押し間違えたんだろ?」
「は?つーか洗濯って自分でやんのか?ランドリー出せば良くね?」
中条の発言に、他三人は一拍 ぽかんとする。
「…え、何。まさかセンパイっていつもランドリー出してんの?」
「やっぱりお金持ちは違うねー」
「……洗濯ぐらい自分でやったらどうだ」
「ああん?やってもらえるモンは利用するだろ普通」
「……。」
ちょうど揃った四人は、そんなくだらない会話を交わしながら 学園の廊下を歩いていたところだった。

「ミノル」
そこに不意に後方から時任の名を呼んだのは、見たことのない人物。
彼から声を掛けられたその瞬間 時任は顔色を変え、酷く動揺していた様子だった。
「ミノル、おいで。」
「っ…!」
男がとても優しい声色で一歩近づいた途端、時任は息を飲んで一歩後ずさる。
そして抱えていた衣類を振り落として、全力で反対方向へと逃げ出した。
「!?」
「おい!?」
その行動に 美柴も中条も驚いて 時任を呼ぶ。
時任の腕から落ちて散らばるワイシャツ。
それらが床に落ちるより前に、久保田は美柴に囁いた。
「ごめん、追いかけて?」
それを聴き終わる前に、美柴は咄嗟に時任を追って駆けだした。
久保田がその男を迎え撃つように 静かに見返しているのだけは、視界の端で見えていた。


そうして、今現在 美柴はその時任を見失っている。
(……どこかに隠れたのか…)
美柴には疑問に思うことばかりだ。
あまり人の過去や背景を探ることはしたくない。
しかし事情はどうあれ、時任のあの様子は気掛かりだった。
逃げる途中 美柴を一瞬だけ振り返った時任の表情。
まるで殺人鬼にでも遭遇したかのような狼狽ぶりだった。

―ガタン
「!」
音の方を振り返る。一番奥の部屋から聞こえたように思う。
「……時任?」
ドア越しに小さく呼んでみるが、応答はない。でも人の気配は感じた。
「…俺だ。開けるぞ」
そう断ってから、美柴はゆっくりドアを開けた。


「……。」

時任は、窓際にへばりつくようにして立っていた。
混乱したような眼差しで警戒心を剥き出しにしている。
今までこんなにも野生の獣のように構える時任は、見たことがない。

「ほ、他の奴は…!?」
久保田と中条のことだろうか。それとも、…あの男のことだろうか。
美柴は小さく首を横に振った。
「…俺だけだ」
「…〜ドア閉めろ…ッ!」
怒鳴るように言われ、言われた通り 部屋の中に入ってから静かにドアを閉めた。
「ッカギ!カギも…!」
それも言われた通りにする。それから わざと少し乱暴にドアノブを回し、その鍵が閉まったことを時任に見せる。
「…これでいいか?」
「……本当に他には誰も追いかけてきてないんだよな…!?」
「あぁ、誰もいない」
「俺が此処にいるってこと、誰かに知らせたりしたか…!?」
「してない。俺は今お前を見つけたばかりだろ」
これでは強盗でも相手にしているかのようだ。
「誰も追ってきてない。大丈夫だ。」
「……〜」
時任は完全な密室と追っ手がないことに安堵したのか、少し落ち着いたようだった。
大きく呼吸すると、壁伝いにズルズルとその場にしゃがみ込んでしまう。
「……〜ごめん…」
「……。」
……時任は何に謝っているのだろうか。
美柴は小首を傾げ、蹲った時任を神妙に見やる。

「…謝ることは何もない。ただ……急に血相を変えて駆けだしたら驚くし、心配する…」
おそらく久保田に言われずとも、自分は時任のあとを追っただろうと思う。
「…〜ッ」
時任は堪えるように 強く自分の膝を握った。
「……うん…ッごめん…〜」
情けなくも、その手は勝手に震えてしまう。

「…〜なんでだよ…」
そう呟く声が、握り締める手の平が、何かに怯えていた。

…next





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