小説 | ナノ


▼ ■

■注意事項■
このシリーズは 色々な部分が未設定です。
とにかく思いつくままに書いていますので、各話の時系列も定まっておりません。
どうか寛大なお心で楽しんで頂ければと思います。


◇↓続きっぽく。


「……俺は俺だけど、でも俺がなんなのかって聞かれたら、俺は答えられない…」
時任の事情を聞いた美柴は、掛ける言葉を失っていた。
まるで自分自身を確かめるように 時任は蹲ったまま自分の肩を抱く。

「……アキラさんには、もう会いたくない…」

いつだって元気で生意気だったこの生徒から、初めて聞かされる弱音。
励ましも慰めも意味がない。そう分かっている美柴は しんと黙り、立ち尽くしたまま その声に寄り添った。

突然 美柴の内ポケットからピリリと電子音が響いた。
それは教師陣に支給されている連絡用回線端末。
これを鳴らすのは、理事長や校長などの学園トップの人間だ。
時任もそれを知っているのだろう。落ち着きを取り戻していた表情が また怯えに一変する。

美柴は目で了解を得てから、静かに通話を繋げた。
案の定、相手は理事長だった。

「時任くんは見つかりましたか」
どんな言葉よりも先にそう問われた。
「……いえ、見失いました」
美柴の言葉に 時任は目を見張った。
美柴は冷静に理事長の問いに答え続ける。
「今、美柴先生はどちらに?」
「特別棟です。階段で見失ったので、部屋を一つずつ見て回っています」
この端末で位置情報が知られない保証はない。
だから下手な嘘はつかなかった。
「これから隣の教員棟のほうへ移動します」
「いえ、まずはこちらに戻ってきてください。理事長室へ」
「…分かりました」

回線が切れる直前、美柴は言った。
「何故わざわざ理事長が時任を…?」
返ってくる言葉は冷ややかなものだった。
「貴方が知る必要はありません」
それは、シギが失踪した時と何ら変わらない、無慈悲な声だった。


「……。」
回線を切った美柴は重い溜め息を一つ零して、時任を見た。
「…なんで」
匿われた時任は戸惑いを露わにする。
しかしそんな様子は無視して、美柴は端末をポケットに戻した。

「……隠し部屋の一つや二つ、知っているんだろ」
サボリ癖のある中条から、そんな話を聞いたことがある。
この二人は 授業に出ない分、この学園のマップに関しては創設者並みに詳しい。
時任が素直に頷くと、美柴も頷き返す。
「ひとまずどうにかして久保田と連絡をつけて、しばらくはそこに篭ってろ」
「〜でも、そしたら!」
「帰りたくないんだろ…?」
「ッ……〜でもさ、もしセンセーが俺の事匿ってるとか疑われたりしたら」
美柴は時任の言葉を聞かず、慎重にドアを開けた。
外に人影はない。さすがにすぐに人を寄越すことはないようだ。

「…俺はお前がどの隠し部屋を選ぶのか知らない」
「……え?」
外を確認しながら、美柴はそう言った。
「だから、お前の居場所を「知らない」と答えても、嘘にはならない」
「……〜ッ」
自分を庇う教師の背中を、時任はぐっと唇を噛んで見つめた。
「〜…何だよ!生徒を守るとか、なんかフツーにカッコイイじゃんかセンセー!」
何故か少し責めるようなその声に、美柴は静かに振り返った。
いつもと何ら変わらない、感情を隠した無表情。

「勘違いするな。お前がどうなろうが俺には関係ない」

でも、本音とは違う言葉。

「面倒な事に巻き込まれたくないだけだ」

そうして 小さな声で「早めに移動しろ」と時任に告げ、美柴はするりと部屋を出ていった。
閉じられたドアに、時任は小さくふと笑う。

「…ツンデレっていうんだぜ。そうゆうの」

一人残されると どこか心細く思っている自分がいる。
怖くて握り締めていた手の平に、視線を落とす。
ここで自分が観念してしまったら、美柴の想いを無駄にしてしまう。
きっと中条も、美柴が時任を庇うと決めたと知れば、それに同調して共に行動するだろう。

(……じゃあ、久保ちゃんは…?)

「……俺の家はここだ」
アキラの元に帰りたくない。
久保田のいる場所が、今の自分の帰る場所だ。
帰る場所は、その一つだけだ。
どれだけ自分のことが分からなくても、この気持ちは本当で、本物だ。
時任は 不安に潰れそうな心を奮い立たせ、これからするべき事だけを考える。
真っ直ぐに前を向いて、立ち上がった。

もう、震えはおさまっていた。


…next





[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -