いつ、どこにあったか判りませんが、疫病神の専門学校がありました。
認知度が低く、お賽銭をあまりもらえない、貧しい神様の子供が、
「資格は一つぐらい持っておこう」
「授業料が安い」
「履歴書の欄は一応、埋まる」
という理由で入る者が多い神様の専門学校でした。
ある年、一人の若者が入学しました。
その若者は、全知全能の神様の子供でしたが、父神の正妻の子供ではありませんでした。
そのせいで、蔭口、からかい、いじめに合ったので、「世間に仕返しをしてやる」という
理由で入学したのでした。
父神は全知全能の神様の家系で、妻になる予定の娘がいました。
その娘は父神の母神、つまり祖母神の一存で決められた、それなりに名のある神様の娘で
した。
しかし父神は、神様協会の会議でとある地方の神様の娘に恋をします。
生まれて初めての恋でした。
それまでは、全知全能の神様の帝王学を学び、人間に崇められる生活でした。
そんな高貴なお育ちの神様が恋に落ち、子供まで作ってしまったのです。
もちろん、妻になる予定の娘一家は激怒しました。
祖母神はとにかく、一家をなだめます。
当然、破談になりました。
そして、「田舎者のくせに!」と祖母神は難癖を付け、地方の神様父娘を、子供と共に神
様協会から追放しました。
それから彼等は、地元に戻り、わずかな、お賽銭と御供え物で生活する事になって、今に
至るのです。
若者は、寝る間も惜しんで勉強し入学しました。
そして、疫病取扱甲種を取得、卒業して、無事に就職しました。
でも、「疫病をふりまく」という恐ろしい技術を手に入れはしましたが、どう利用して仕
返しをすれば良いのか、判りませんでした。
ある日、事故が起こります。
ミスが多い新人疫病神が、予定になかった疫病を流行らせてしまったのでした。
神様市場は大慌てです。
無念の死を迎えた魂が大量に発生し、人間の魂の株価が暴落してしまったからです。
エリートであったり、高貴であったりする神様達が悪戦苦闘の中、若者は思いました。
「いいザマだ。せいぜい苦しむがいいさ。」
ですが、世の中そうは、いきません。
疫病を鎮めるために、神様協会は、恥も外聞もなく、協会に所属していない地方の神様ま
で、かりだします。
そこまで事態は最悪の一途をたどっていました。
もちろん、若者にも召集令状が届きました。
別に好きで、あてに、している訳ではないのは判っていました。
「どうせ、必要とされない身だし、暇潰しもいいかもな。」
若者は、空に手をかざしました。
すると一瞬にして、世界は清浄な空気に包まれました。
「どこの神様だ?」世界は、ざわつきます。
しばらくして、全知全能の神様の隠し子だと知れわたりました。
若者はえらい働きをしたと褒めたたえられ、崇められました。
全知全能の神様の後継ぎにも選ばれました。
でも、若者は断ります。
それは、疫病神でありながら人間に感謝されたからです。
なにか黒いモヤが晴れた心持ちに、なりました。
若者は初めて必要とされる喜びを知り、自分の仕事に誇りを持ちました。