ある凍えそうな夜。僕は君を見かけた。 その顔はとても幸せそうで…そう、あの日、僕に足りなかったものは。 珍しく凍えそうな程に冷え、雪さえ降るんじゃないかと思ったあの日。 君を見たのはそんなある日のこと……一瞬だったけど、僕は君を忘れない。 だって、あんなにも身を焦がした恋を簡単に忘れられるはずがないのだから。 「きっと夏のせいかもね、熱に浮かされているんだわ」 君と付き合い始めたのはいつだったかな。 確か、夏のたいそう暑い日だった気がする。 ある日、会話の端々に好きオーラを発してくる君に質問したんだっけ。 僕を好きになった理由が夏のせいだというのはきっと冗談だったろう。 でも僕は君とのこうした言葉遊びが大好きだったんだ。 「夏のせいにされたんじゃ、たまらないよ…照れてるだけだろう?」 「まあ、そうね。愛してるなんて恥ずかしくて言えない……あ、」 あ、これじゃ言ったも同然ね。 と君は誘導尋問に引っかかったことに気づき、ふと笑い出した。 僕は別に誘導尋問なんてしようと思ったわけじゃないけれど。 でも、彼女の気持ちに気づくことが出来て、ある意味得した気分だった。 僕は確かに君が好きで、君も僕が好きで。 こんな日々が永遠に続くだろうと思っていた。 | ||
季節は巡って。 木枯らしが吹くだろうと予想された風の強いある日。 君からの一言で、僕たちの関係はあっという間に冷めてしまったんだ。 今でもその一言が僕の心を抉る。 「あなたのことは好き。でも……もう一緒にはいられないの。ごめんなさい」 要領を得ない君に理由を尋ねようとしたさ。 でも君はそっと涙を流すだけで、はっきりとは言ってくれなかった。 何故だ、僕の何がいけなかったんだ……!! 僕は何度も自分を責めた。 もしかしたら僕は君を無意識に傷つけていたのかもしれない。 何が別れに繋がったのか、一生懸命考えたんだ。 けれど、ある冬の日。 君がとても幸せそうにある男性と歩く姿を見て合点がいった。 ああ、とても優しそうな男だ。 それでいて、その瞳には強い意志を感じられた。 そう、君が望んでいて、僕に足りなかったもの。 それは意志の強さだ。君を引っ張っていく勇気が足りなかった。 | ||
ある冬の日。僕は君を見かけた。 それは一瞬だったけれど、君の表情は幸せを描いていた。 僕は自分の女々しさを呪ったね。 ああ、もうどうしようもないんだ。君は他の誰かのものになってしまったのだから。 やがてしんしんと雪は降る。雨ならばよかった。 いっそのこと、この身の罪深きを洗い流してくれればよかったんだ。 ああ、神様。本当にいるのなら、どうか僕の、彼女への想いを消し去ってください。 降ってはすぐ溶ける雪のように、儚く消える恋。 忘れずに痛むこの胸。そんなものは要らないから。 ああ、神様。この恋を。 すっかり忘れることはできなくとも、綺麗な想い出にしたいのです。 どうかこの願いを聞き届けて……。 空は僕のこの願いを聞き届けることはあるのだろうか。 無情にも雪は僕をさらに凍えさせ、その身を冷たくさせるのだった……。 | ||