ひらりひらりと舞う桜の下で 子ぎつねが問いかける
「ねぇ母さま 桜はなぜ散ってしまうの?」
「子ぎつねや 花ははかない生き物なのだ
はかないものは 総じてその短い時を見せつけるかのように美しく生きるのだ」
雨の日の洞窟で 子ぎつねが問いかける
「ねぇ母さま 風はどうして歌っているの?」
「子ぎつねや 風は誰かの気持ちを運ぶ
風を使って 誰かが誰かを呼んでいるのだ」
崖から下の人々を眺めて 子ぎつねが問いかける
「ねぇ母さま 人はなぜ早くに死んでしまうの?」
「子ぎつねや 生き物は総じて死ぬものよ
人という生き物は 長くは生きていないものだ」
森の奥の大きな木の下の褥で寝る母ぎつねに 子ぎつねが問いかける
「ねぇ母さま どうしてずっと寝ているの?」
「子ぎつねや 母はもうそばにはいてやれぬ
母はいかねばならぬのだ」
母はそれきり黙り込んでしまった。
「ねぇ母さま どこに行ってしまうの?」
答えは返ってこなかった。