もう、この先長くない……。
 懸命に抗ってきた人生の矢先に告げられたのは、冷酷な一言だった。
 生まれつき体が弱いことを呪わしく思いながら、何とかして動かしてきた身体は、とうとう悲鳴をあげて朽ちようとしている。
 僅かに残った……0.1%の水分は溢れ落ちて、零に向かって走っていく。
「今日は何をしようか」
 分からず屋の思考は、抗えない運命を定めた神に抵抗し、希望的観測を述べる。
 あまりにも遠すぎる距離にうちひしがれることなど、とうの昔に分かっていただろうに……。
 ぼやけてゆく視界に映ろう無機質な空間を遮断するように、私は眠りに落ちていった。

「ようこそ……」
 揺らめく意識に呼び掛ける声に目を開けば。
「……だれ」
 白髪混じりのひげを盛り上げた老人が笑っていた。
「いきなり声を掛けたから、嫌われてしまったかな?」
「……えっと……サンタクロース?」
「一応は」
 しわがれた声が正解と笑ったので、目を見開いた。
 サンタクロースの存在を信じていたのは遠い昔。
 大きくなれば夢が朽ちて現実へとシフトする。本当に呆気ない成長によってサンタクロースという言葉も忘れていった。
「本当にいたんだねえ」
「うむ、君は少々ひねくれている」
「大人になったのよ」
 薄皮をつつかれているようで何となく不愉快だったもので、睨み付けるようにぴしゃりと反論した。
「立派な大人だ……少し不自然なほど」
「……そうね」
「諦めているのかい、この先を」
「もう、思い知らされたわ」
 他人から見れば随分短い人生で、結末を決められてからは何にもせずに。
 他人も薄々は気付いていて、我が儘を言ったって叱る人はどこにもいなかった。
「諦めてはいかん、いかんのだよ」
「……」
 初めて言われた叱る言葉に、口を閉ざした。
「戦うんだ。僅かでもいいから。きみは、今までそれをしてこなかった」
 薄皮を剥いで、心を揺する言葉に溢れる感情が、より口を重く閉ざして行く。
 どこかで、どこかで、どこかで……。
「……もう少し」
 本当はこの体が憎かった。無くなってしまえばいいと思った。
 でも、どこかで……きっと、甘えていた。
 夢見が悪いのは、罰なのかも知れないね……。
 無色の空間が動いて、意識が現実へと移り変わる。

「もう少し、いけるかも知れませんね」
「本当ですか?」
「我々も力を尽くします。だから、諦めてはいけませんよ」
「ありがとうございます!」
 母の声が外で聞こえる。
 やつれた声に潤いが宿った時は、何故だか分からないが安心して。
「はじめまして」
「……はじめまして」
 白髪混じりのひげを盛り上げた老人が、白衣を纏いながら意味深に笑って入ってきた。
「先生の言うこと、ちゃんと聞くのよ」
「……はい」
 容赦なく浴びせた言葉を覚えている意識は、自然と老人に向かってにこやかに笑ってみせる。
『きみは、なかなか手強いな』
『あなただって、手強いわよ』

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