小さな電球の前で、複雑に手を動かす、一人のピエロ。その手が作り出す影が、ヨーコに幻想的な世界を魅せる。
フクロウ、兎、リス。白鳥・・・小さな動物たちが、ヨーコの影の周りを走り回る。
「その手、どうなってるの?」
「企業秘密さ!」
いかにもピエロらしい、陽気な声で答えたのはハギ、と呼ばれる青年。なんでも素直に喜んでみせるヨーコにさまざまなことを教えてくれる。
「えー、教えてよ!」
「仕方ないなぁ。ちょっとだけだよ?」
ほら、人差し指と人差し指くっつけてごらん。小指と小指も。そうそう。ほら、手丸めて。親指と人差し指で顔作ってごらん?ほら、壁をご覧よ。
「うわぁ。うさぎだ!」
ありがとう、ハギ!そう笑うヨーコは純真で。顔は笑って心で泣くハギとも、煩悩や欲望の塊であるセンとも違う、この地下にいるのが似合わないような少女。
ヨーコの喜んだ顔をみて、ハギはまた、手の形を次々と変えていった。
仕事でいないセンが帰ってくるまでの間、ヨーコたちのいる部屋にはたくさんの影絵が映り続けていた。
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ヨーコ嬢の悪魔のハギのお話。
お兄ちゃんと妹のような関係。