家に入ってすぐ。甘ーい香りが広がる。台所の方からは、かちゃかちゃと何かをかき混ぜる音がする。
「あ、お帰りなさい。ごめんなさい。まだお菓子できてないの。」
ボウルの中のチョコレートをゆっくりとかき混ぜながら、ヨーコが言う。
甘い香りの、茶色いどろっとした・・・・
「カレー?」
「チョコレートだよ。」
「ちょこれーと?」
「バレンタインデーだから、チョコレートなの。バレンタインは、チョコレートをあげる日だから。」
「ふーん。甘そうな香りだね。」
ボールをのぞき込んで、匂いを嗅ぎながら、センが言う。
「甘いの嫌い?」
「ううん。あんまり食べたことない。水飴とか、そのくらい」
「ふふっ、じゃあたのしみにしててね。」
ドキドキする、チョコレートの、香り。
作業中に、ほほをこすったのか、ヨーコのほほにチョコレートがついている。
「ねぇ、お腹すいた。」
「んー、ちょっと待ってよ。」
「やだ」
ペロッ
ヨーコのほほのチョコレートを舐めとるセン。
「キャッ」
「ああ、
甘い、ね。
ちょこれーとも
ヨーコも。
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バレンタインの、ふたり。