2月14日、バレンタインデー。
浮き足立つカップルたちや、恋する乙女、思春期の男の子が町に溢れる日である。
が、しかし。
「バカ野郎こちとら受験じゃボケぇ!!」
「落ち着け」
そう、バレンタインデーとかいう甘ったるいイベントの二日後。16日月曜日に我々受験生の戦争が開幕する。
もともと受験生の私たちにバレンタインデーなどありはしないのだ。
「大体なぁに?バレンタインデーって製菓会社の陰謀なんでしょ?そうなんでしょ?知ってる」
「とかいいつつ毎年部活用に大量生産するのはどこのどいつだ」
「これは仕方ないの!」
喚く私に横槍をグサッと突き刺してくる忌まわしき男。小学生の時からの付き合いである。
「今年もどうせ入試終わったらやるんだろ」
「お情けチョコが欲しくないのか」
「俺はそんなのなくったってチョコの1つや2つもらえるしぃ〜なめんな」
「どうせ後輩からでしょ」
げ、バレバレかよと顔をしかめたこいつにわざとらしくため息をはく。中学三年生、受験生、あと一ヶ月もすれば卒業だ。
「入試終れば卒業もすぐか…」
「なに?寂しいわけ?あれか、俺と進学先違うからか?そーかそーか寂しいのかー」
ニヤニヤしながらわざとらしく喚くこいつになんとなくムカついた。いやこれは仕方ないと思うんだよねうん。
「そうだよ、って言ったらどうする」
「…え、…は?!」
「ぷっ、んなわけないでしょバーカ」
頬杖をついて、一瞬目を見開いて明らか動揺するこいつを笑ってやった。いい気味だ。
「んだよ、嘘かよ…」
なんで残念そうなのバカじゃないの、口にでかかった言葉を飲み込んでデコピンを一撃お見舞いする。ズビシ。クリティカルヒット!
「あんたと同じ校舎で過ごすのも最後かー…まぉ今年のチョコは楽しみにしているがよい」
最後だから、もうすぐ卒業だから、来年はもうないから。
必死の言い訳を並べて含み笑い。
「最後くらい可哀想なあんたにこの私がとびっきりのチョコレートをプレゼントしてあげよう」
「……どういう意味だよ」
「とりあえずは公立入試頑張るかー」
「てめぇ誤魔化してんじゃねーよ!」
「はいはいそーですねーどういう意味ですかねー」
「おま、お前覚悟しとけよ!」
「意味わかんないから」
少しむきになったこいつの反応に満足しつつ、毎年めんどうだったイベントが少し楽しみだと感じた私も恋する乙女と大差ないのかもしれない。