とある田舎街の、少しだけ規模の大きな夏祭り。

綿菓子、射的、たこ焼きにヨーヨー掬い。たくさんの出店が立ち並ぶ道中、その先ではたくさんの燈籠がぼんやりと神社を照らしていた。

この夏祭りにまつわる、1つの噂。

"境内にひっそりと店を構えた女に気を付けろ"
"射的屋の女に声をかけられたら逃げられない"
"林檎飴をくれる女は無視しなければいけない"

出所、詳細ともに不明の噂話。嘘か本当か、どんな出店なのかも知らされていない話。ただ共通するのは、どれも一人の女が絡んでいることだけ。

とある少女は林檎飴屋だと、とある少年は射的屋だと噂に尾ヒレや背ヒレをつけられて、どれが本当なのかもわからなくなった噂。



年に一度の夏祭りに人々は普段着ない浴衣に身を包み、カラカラコロンと下駄を鳴らして人混みを行く。

街は賑わい、人々が楽しげに笑う。

「いらっしゃい、お嬢さん」

太鼓の地響きのような音やたくさんの人の声が混ざりあって騒音と化した境内に、一人の金魚すくいを営む若い女の声が静かに響く。

呟くように言ったにも関わらずに、高校生くらいにも見える女の声は騒音に溶けることなくとある少女の鼓膜に響いた。

「お代はいらないよ」

少女は、女の妖しげに光る瞳に心を惹かれながら、無意識に差し出された金魚すくいのポイを手に取ってしまう。

それ以降、少女の姿を見た者はいなかった。

"昔々、神木に縄を結んで首をつった女子高生がいたんだって

今でも、彼女は夏祭りに現れて少年少女を連れ去っていくらしいよ

だから"


『"金魚掬いを営む若い女と目を合わせてはいけないよ"

って、聞かなかった?』

神木が鬱蒼と広がる森に、一人の女の笑いを孕んだ声が夏祭りの騒音に紛れて消えた。
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