らいおんくんとしまうまくんの赤



サバンナのライオン

友達をうしなって
ライオン君は、おいおい泣きました。
なによりもやるせないのは
シマウマ君がいなくなってしまったのは、
ライオンのせいだということです。

ライオンには、
とっても するどいツメと、
とっても とがったキバ、
そして強い飢えがありました。

それはほかの動物を食べるためでしたし、食べなければライオンは死んでしまうのでした。

ライオンはとても強く、だれにも負けませんでした。
ゾウにもサイにもカバにもです。
そして不思議なことに、強くなればなるほど、
ライオンのツメとキバは だんだんとするどくとがり、ひふはあつくなっていきました。
しだいにライオンは誰からも傷つけられなくなり、
けれど誰よりも飢えていきました。

あらゆる動物たちの中で一番、
ライオンは、死にたくありませんでした。

「ライオン君、君はどうしてそんなに食べるんだい」
ある時、シマウマ君が声をかけてきました。
ライオンは驚きました。
その頃にはライオンはあらゆる動物から怖がられていて、誰も話しかけてくるものはいなかったのです。
「腹が減るからだ」
ライオンの声は、久しぶりに威嚇以外の声を出したため、かすれきっていました。
「バッファローに、キリン、ヌーを食べてもかい?」
「ああそうだ。腹が減って腹が減って仕方がない。いくら食べても、足りない。苦しくて苦しくて仕方がない」
「ライオン君、それはきっと、空腹じゃあないよ」
「じゃあなんだ。このすーすーする、涙が出そうになる、この苦しさはなんだ」
「君は、さびしいんだよ」
「さびしい!」ライオンは笑いました。「そんなわけがあるか! 俺はライオンだぞ! おかしなことを言うんじゃない」
「いいや、君は寂しいんだ。君に傷つけられるのをこわがって、君の周りにはだれもいないじゃあないか」
「ああそうだ! 食べなければ死んでしまう! 俺は死にたくないし、みんなそうだろう? だったらだまされるかもしれない。奪われて、踏みにじられるかもしれない。だから誰も近づけない。だれも、だれも信じてやるものか!」
「じゃあどうして、君は、今、泣いているんだい」
シマウマ君はライオンに近づいていきました。
「泣いてなんかいない! おかしなことを言うな! お前も食ってしまうぞ!」
ライオンは大きな声を出して、シマウマ君を威嚇しました。
一歩、また一歩とシマウマは進んでいきます。
「やめろ、来るな! 来るんじゃあない! 来るなあ!」
ライオンは自分の胸にこみ上げる気持ちに、もう、どうしていいのかわからなくなっていました。

ライオンはするどいツメを持ち、とがったキバを持ち、固いヒフを持っています。
ライオンは誰よりも強く、誰にも傷つけられることはありません。
そしてライオンは誰よりも飢えていて――

「ライオン君、泣くなよ」シマウマ君は言いました。「僕のことは、いいんだ。君のそのするどいツメやそのとがったキバは、とてもとても痛かったけれど」
ライオンはシマウマ君の首もとにかみついていました。
「そんなことは、どうってことないんだ」
だって、とシマウマは言いました。
「だって僕は君のことが、心配でしようがなかったんだ」
どくどくと血が流れていきます。
「君が苦しそうなのが、たまらなく、つらかったんだ」

――その飢えは、いったい何に対するものなのか、ライオンはようやくわかりました。
ライオンは誰かに守ってほしかったのです。
誰かに受け入れられて、誰も傷つけないよと言ってほしかったのです。
その言葉一つでよかったのです。

「僕らは友達になれないかなあ」とシマウマは言いました。「ねえ、ライオンく……」
そうしてシマウマ君はピクリとも動かなくなりました。

あれだけ強く、ライオンを突き動かしていた飢えが、次第に消えてなくなっていくのがわかりました。

シマウマ君を食べながら、ライオンはおいおい泣きました。
肉を食いちぎり、血をすすり、シマウマ君の心を探しました。
友達をうしなって、ライオン君は、おいおい泣き続けました。

そうしてその後ライオンは、誰も傷つけず、誰かのために傷つき、するどいツメもとがったキバも固いヒフもぼろぼろになって、誰かに食べられて死にました。

たくさんの友達に囲まれて、おいおいと涙を流されながら。


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