騙し合い

「さーあよってらっしゃい見てらっしゃい!」


威勢の良い声が寂れた町に響く。継ぎ接ぎの服をまとった人々が何事かと首を傾げた。


「財宝、家宝、何でもあり! お買い得だよ買わなきゃ損だよ!」


宝の響きに、人だかりがあっという間にできる。地面に敷いたぼろ布の上で胡座をかき、少年は山積みにした中から欠けた壺を取り出した。ガラガラと山が崩れた。


「地獄の魔王の啖壺さ! 気高きお方の啖は幸運を呼ぶよ!」


少年は次にぼろ布を取り出した。ゴロゴロと山が崩れた。


「天女が隠した羽衣さ! 今じゃ空は飛べないが、男を惑わす魅惑あり!」


次に少年は割れた茶碗を取り出した。ドサドサと山が崩れた。


「仏様の使った茶碗だよ! これを使えば極楽浄土、ついでに金運上がったり!」


少年が次々にがらくたを手にすれば、人々の眼差しは次第にきらきらと輝き始めた。恋愛成就、商売繁盛、家内安全。どれもが魅力的で否応なく惹き付けられる。


「壺、買った!」


人だかりの中から男が大声を上げた。


「茶碗を頂戴!」


女が腕を振り上げる。


「俺も茶碗!」

「妖精の砂時計をくれ!」

「首切りジェーンの愛用の首切り斧!」

「かぐや姫の麗しの髪!」


次から次へと声がかかる。少年は手際よく品物を渡し代金を受け取り、だんだんと人だかりも薄れていく。しばらく後には、敷き布の上に金銭が山になっていた。


「今日もだいぶ騙せたな……まあちょろいもんだよ、適当に言えば奴らは高値を出してくる」


少年は暗い路地にぼろ布を抱えて走り込んだ。



「ただいま!」


路面で寝そべっていた女性がふと上体を上げた。ぼろぼろの服や髪が彼女をより老いてみせていた。

少年は女性のそばにぼろ布を置いた。中から金銭がガシャリとこぼれ落ちる。


「今日もこんなに稼げたんだ」


少年が笑う。


「今日も墓地へ行ってくるね。たくさん、見つけてくるから。たくさん、稼ぐから。だから待ってて、母さん」

「私が働けたら、墓荒らしなんてさせないのにねえ……それにしても、お前、よくがらくたをこんなに上手く売れたねえ」

「欲しがってる人がちょうどいるんだよ」


眉を下げる女性に、少年はにっこりと笑った。


「ねえ母さん、今日は何を買おうか? 久し振りにりんごを食べたいよね?」

「そうだねえ」


母親の微笑みに、少年は満面の笑みを返した。


「さーあよってらっしゃい見てらっしゃい!」


威勢の良い声が寂れた町に響く。継ぎ接ぎの服をまとった人々が何事かと首を傾げた。


「財宝、家宝、何でもあり! お買い得だよ買わなきゃ損だよ!」


宝の響きに、人だかりがあっという間にできる。少年はぼろ布の上でがらくたを披露した。


「毎日やってるねえ」


人だかりの中で女性がこそりと呟く。


「母親が不治の病なんだってな。可哀想なもんだ」


隣にいた男性がこそこそと返す。


「家もないんじゃあ、ねえ。しかも母親がお人好しで、誰の金も受け取らないらしい」


「確かに、俺たちもそんなに余裕があるわけじゃあないが……情けくらい、受け取って欲しいよな。俺たちができることは、このくらいさ」


男性は言い、高く手を上げた。


「古代女王様の櫛飾りをくれよ!」

「あたしは鬼の煮釜をちょうだい!」


少年は手際よく品物を渡し代金を受け取り、だんだんと人だかりも薄れていく。しばらく後には、敷き布の上に金銭が山になっていた。
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