第三幕「再会」

どこをどうやって歩いたのでしょうか。シンデレラが家に戻った頃にはドレスはすっかり元の服に戻り、シンデレラは悲しみにくれていました。

「どうして……どうしてこんなに悲しいの。」

シンデレラがうずくまって泣いていると、シンデレラのお父さんがやってきました。

「シンデレラ、どうしたんだ?」

「お父さん。……うわぁぁぁん。」

 シンデレラはお父さんに、魔法使いのおかげで舞踏会に出ることができたこと、王子に声をかけられて一緒に踊ったこと、魔法が0時に解けて、王子に無礼な去り方をしてしまったこと……とにかくシンデレラ自身が心の奥に持っていた深い、深い悲しみを打ち明けました。

「ただの一度も会ってはいけなかったのよ……王子に会ってしまわなければ、こんなに悲しい思いをしなかった。どんなにお母さんにいじめられて、お姉さんたちに馬鹿にされても平気だった。でも、あんな出会い方をして、あんな別れ方をして、どうして「もう一度王子と会える」なんて信じていられるの?
結局私は貧乏な女の子、王子は未来の王様。初めから会うはずのない運命を捻じ曲げたのは、私の愚かな妄信だったの……」

「そんなことを言ってはいけないよ、シンデレラ。(諭すように)シンデレラが悪いんじゃない。いいや、誰が悪いわけでもないよ。
そんなに苦しいのはね、シンデレラ。お前が王子を好きになったからだよ。」

「好きに……なった……?」

「そうとも。誰かを好きになるということは、すごく辛いことだ。なぜなら、自分の中にずっと、想い続けるからだ。自分の中にずっといるのに、近くにいない……それが辛いんだよ。」

 シンデレラのお父さんはシンデレラの肩をやさしく抱き、シンデレラに諭すように言い聞かせます。それを聞いたシンデレラは、ますます泣き出してしまいました。

「お父さん……うわぁぁん(すがって泣く)」



 その頃王子は、街中を歩き回っては、靴の持ち主を探していました。一軒一軒の家を訪ねて回り、舞踏会で自分と踊った美しい少女を探していたのです。

「すみません、舞踏会に出席した方ですか?」

「は、はい!王子、どうしてここに?」

 王子は一軒の町娘の家をたずねました。訪問された町娘はあわてています。

「何も聞かずにこれを履いて下さい。」

召使が、娘に靴を履くように勧めます。そのわきで、爺やは王子に囁きました。

「あの娘は、王子の探している娘でしょうか?」

「たぶん、違うな。なんというか……もっとかわいかった。」

 町娘の足には靴がぴったり入りません。町娘は残念そうに召使に靴を返すと王子に言います。

「私、履けませんでした……少しこの靴は大きすぎます。」

「そうか。手数をかけました。失礼します。」

 町娘が舞踏会で踊った少女ではないことを知ると、王子は次の家へと向かおうとします。

「あのっ!お茶だけでもお飲みになりません?」

「いや、先を急いでますから。」

 町娘の誘いを、力強く振り返った王子はすっ、と手を差し出して断ると次の家へと向かいました。

 そしてついに、王子はシンデレラのいる家にたどり着きました。

「ごめんください、このお宅に、舞踏会に出席した方はいらっしゃいますか。」

「私と娘二人です。」

 王子の訪問に家から出てきたのは継母と二人の姉です。シンデレラはいつも来ている汚い服で家の奥の方からそれを見ていました。

「本当ですね?では、この靴を履いてみて下さい。」

 シンデレラが奥にいるのを見つけた王子はそちらをちらりと見ながら靴を差し出しました。継母と姉たちは靴を履いてみますが、大きかったり、小さかったりして靴が履けません。

「あっ、あの!」

 その様子を見ていたシンデレラが声をかけると、怒ったように振り返った継母がシンデレラを叱ります。

「そんなところにいたの!あんたは奥に控えてなさい!」

 王子はシンデレラに声を掛けます。

「どうぞ、言ってください。」

「はい、わたしもその靴を履いてもいいですか。」

「あんたなんかにこの靴が似合うわけないでしょう?」

「そうよ、王子の大事な時間を奪うようなことしないでよ。」

 自分も靴を履いてみたいといったシンデレラに、二人の姉は怒りましたが、王子は少し考えるそぶりをみせた後こういいました。

「いや、君にも履いてもらおう。……爺や。」

 爺屋がシンデレラに靴を履かせます。すると、どうでしょう。王子の持ってきた靴はまるでシンデレラの為にあつらえられたかのように彼女の足にぴたりとあうではありませんか。

「王子、ご覧下さい。」

「そうか!君が……。そうなのか。」

 シンデレラが舞踏会の夜に一緒に踊った少女だと気付いた王子はシンデレラに向き直ります。

「はい、ごめんなさい……」

「おい、待ってくれよ!」

 すると、突然王子に謝り、シンデレラは外へと駆け出してしましました。王子は彼女をあわてて追いかけます。


 しばらく走ったところで、シンデレラは王子に腕をつかまれ、追いつかれてしまいました。

「どうして逃げるんだ!僕は君と一緒にいたい!僕と結婚してくれ!」

「ありがとうございます……でも、ダメなんです。」

 王子の告白をシンデレラは彼の腕をやんわりとほどくとともにそっと断りました。

「正直に言おう。僕は舞踏会で君に一目惚れしたんだ。僕の中だけで君が生き続けるのはもうたくさんだ。わがままかもしれないけれど、一人よがりかもしれないけれど、僕の近くには他でもない、君に居てほしいんだ。」

「でも……私は妃になるような身分の者ではありません。私も一緒にいることで、あなたの事を悪く言う人がいるでしょう。」

「かまわないと言っている!」

「いいえ!……かまうのは私です。私がいてあなたが傷つくことになるなんて……私はそんなの嫌です……!!」

 王子が一歩前に出るとシンデレラは一歩後ずさります。その距離を一気に詰めると、王子はシンデレラの手を握ってこういいました。

「いいんだよ。それとも僕が嫌いかい?」

「…好きです、大好きです。でも…」

 まだ、王子の申し込みを断ろうとするシンデレラを王子は優しく抱きしめました。

「それだけで僕は、なにがあっても大丈夫だから。」


「ありがとうございます……喜んでお受けします!」

 シンデレラの返事を聞いた王子は、シンデレラを横抱きにすると、いつの間にかすぐ後ろにやってきていた爺やに言いつけました。


「爺や!今すぐに挙式の準備をするぞ!」

「はっ、今すぐに。」

 幼いころからつかえていた王子の結婚に爺やの顔からも笑顔がこぼれました。


終幕


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