第十四話 襲来。


酷い脱力感と、虚無感。
遠くから聞こえるのは愛しい女-ひと-の声。
また、またあの娘を…最初で最後に愛した人を…独りにしてしまう。
ごめん、ありがとう。そして、


「俺、は……シレー…ナ、の、こと…」


愛していた。

最後までシレーナにこの言葉が届いていたかもわからない。
あぁ、あのとき無理にでも一人で対峙していればこんなことにはならなかったかもしれない。
シレーナを悲しませることもなかったかもしれない……ーー



***



「……怖いか?」

「いいえ?独りのほうかよっぽど怖いわ」

「そうか…」


あと数分もすれば、天使軍と悪魔軍がエントランスホールに雪崩れ込んでくるであろう。
そんななかで私たちは二人、最後になるかもしれないティータイムを過ごしていた。


「シレーナ」

「なにかしら?」


これを、とポケットから出てきたペンダントを彼は私に差し出す


「シレーナ、君は俺が…守るから」

「なにを、馬鹿げたことを…!
自分のことくらい自分で……」

「天使軍と悪魔軍は一筋縄じゃいかねぇんだ」


私の言葉を遮って、押し付けてきたペンダントを受け取る。
彼の髪のように銀色に輝く羽のペンダント。
ひんやりとしたそれを目で促された通り首に下げた。
するとふわりと体が軽くなったような、体の奥からなにかが込み上げてくるような不思議な感覚。


「魔力増幅ペンダント…?」

「……まぁ、それもあるが…
俺の幻想術に堕ちないようにするためのものでもある。」


曖昧に笑って誤魔化したバーンを不審に思いながら羽に触れる。
首から下げたそれに触れると、突然大きな音が響き渡る。


「おでましか」


クイッと冷めた紅茶を飲み干して、バーンは一人でエントランスホールへ向かおうとする。


「バーン、私も……」


一緒に、と言おうとしたところで窓ガラスが一気に割れ始めた。
バリンバリン!と割れては落ちてくるガラスを強風で吹き飛ばす。


「やるねぇ…」


口笛をひと吹きしてこちらをチラリと見た彼の隣に立つ。
そして、エントランスホールへの扉を吹き飛ばして無謀な戦いが幕をあげたのだった…。

優しく微笑むはずの天使は血眼で私たちに総攻撃をかける。
残忍な笑みを浮かべた悪魔は漆黒の翼で上空を舞い魔法を発動させた。
それと同時に、彼は天使と悪魔を惑わす幻想術を。私は錯乱状態に陥った天使と悪魔に攻撃魔法を放った…ーー。



始まったのは一人の男の命をめぐる魔法戦争。

天と地が手を組んで、シレーナとバーンに襲いかかる。
神聖な天使が血塗られていき、残酷な悪魔が不気味な笑い声をもらす。
破壊音が響くなか、二人は2手に別れて軍のものたちと対峙していく。

心にも罪悪感や罪意識という傷をおい、体は軍の攻撃を受けて怪我をおう。
長年生きたなかで、魔力は人間の域を超えて並大抵のものではないとはいえやはり久しぶりの攻撃魔法に魔力体力も削られていく。
エントランスホールでいまだに戦っている彼を心配しながら、また魔法を放った。
目の前がかすんでいく。

あぁ、数が多すぎる。
そろそろ、ダメかもしれない。そう思い始めた頃。

突如今まで感じたことのない大きな揺れに、床に座り込んでしまう、揺れが収まり目を開けると…


「な、に…これ」


天使と悪魔のものだと思われるモノクロの羽がふわふわと舞い降りているだけで、肝心の天使と悪魔は姿を完全に消していた。

破壊音が響いていた館が急に出来た静まりかえる。
ざわざわと胸のなかが騒ぎ始めた。


「バーン…バーン!」


そして流行る胸を押さえつつ、バーンのいるであろうエントランスホールへと向かった。

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