分からない恋
03
 情報というものは日々更新されるものだ。しかし人間様はモバイルではない。故に俺は、マメに動かなくてはならない。そんな俺を浅ましいと思う者は笑えばいいさ。
 彼女と通じ合えている人が誰一人として居ない。そう確信をもったのが夏の初め、調査依頼から四週間が経過していた。それとも、俺が少し慎重になりすぎているのだろうか?

「ええい、こうなったら」

 毎日一度は校内で観察するようになった彼女の顔が思い浮かぶ。
 こうなったら、俺がその第一人者になってやる。



 青い空、白い雲。眩しい日の光が俺の両肩を照らす。
 こういう天気は、クーラーの効いた部屋から眺めていたい。それなのに今は屋外も屋外、水泳授業の時間で長距離を計測中。
 女子は隣で別メニューをこなしている。なんでも、チーム対抗リレーだそうだ。アンカーはあの四ノ倉さん。へえ、水泳得意なのか。いや、クロールが得意なんだ、というべきか?
 あっという間に入水。綺麗だなあ……。

「次、入って構えろ」
(おおっと)

 俺もザブンと冷水の中へ。

「用意」

 体育教師が笛をくわえた。ゴーグルをグイと下げ、ピッと勢いよく鳴るのを待つ。

「柚希!」

 叫び声が聞こえるや否や、水しぶきが盛大に上がる。な、何があった? 飛び込んでいったのは、紛れもなく男だ。でも、着衣しているわけじゃないから、人物まではちょっと……。

「そこのお前、こっちまで運べ」
「は、はい」

 四ノ倉さんを両手で抱えて、男子生徒はプールサイドへ向かう。ようやっと、顔が判別できるようになった。

(あいつは……)

 知っている、知っているんだけど……あっ。

「どうして……!」

 そりゃあ、当然の疑問さ!
 『問題児』紺崎こうざき望道たかみちが、どうして四ノ倉さんを?



 昼休み、当人二人のいないうちに、クラスの女子に聞き込み調査だ。そういえば、最近怠り気味だったかもしれない……迂闊だった。話題を先ほどの水泳授業に持っていくのは容易かった。

「そういえば最近、シノっち明るくなってたよね」
「やっぱり、恋愛って大きいわ」
「うんうん、わかる。誰かに守ってもらえる、っていう実感がさ。あるのとないのじゃ大違い」
「紺崎くんとか、いかにも忠実そうだもんね」
「ああいう人、あたしにもいたらいいのに……」

 キャーとひとしきり騒いでから、その中の一人が何ともなしに呟いた。

「そういえば紺崎くん、物理の先生に褒められてたよ。この前のテスト良かったんだって」
「へえー。まあ、そうよね。シノっちのカレシだもん」
「シノっちは少し落としたみたいだよ」
「わあ、かわいそう。勉強できなかったのかな?」
「落としたって言ったって、うちらよりは断然いいんだろうけどさ。……勉強と恋、両立できてないのかな?」

 やっぱりおかしい。以前なら、二人に関してこれほどの情報(噂も含む)は得られなかったはずだ。紺崎は陰気で、四ノ倉さんは超越としていて。そして何より、あの二人は地味だった。
 奥歯をかみしめる。ぎり、と音がした。
 何なんだ、この感じは。
 あの二人に、そしてこの俺に、何が起こっているんだ。
 何が起こっていやがるんだ。



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