分からない恋
01
 口のうまい奴、というのが、十人中十人の俺に対する評価だと自分でも思っている。いい意味でも悪い意味でも困っている奴を弁護する事ができるし、口喧嘩に持っていけば誰にも負けない自信さえある。
 駒浦こまうら小径こみち、一七歳。現在高校二年生。
 この特技(というか、性格)をうまく使って生きてきたのも、まだほんの二、三年ほどでしかない。今となってはもう懐かしい思い出だけど、昔は典型的な口下手だった。話し出すきっかけを、掴めなかっただけだったんだと思うけどね。
 どうしてそんな俺が「口のうまい奴」に成り上がったのか? ……うん、「成り上がった」は過剰表現じゃないな。
 今でも覚えているが、転機が訪れたのは、中一の秋だった。国語の授業の一環として一分間のスピーチをしなければいけなくなった。その頃の俺はちょうど、歌の歌詞とその力について思うところがあったので、その事について一くさり語る事にした。人に伝わる言葉には「印象」が必要なのだとか、どうとか。
 話している間、俺は今までに感じた事の無い快感に近いものを感じていた。俺が話している間、誰一人として俺以外の何かに意識を集中させてなどいなかったのだ。俺は夢中になって話し続けた。
 それからというものの、「話す」ということに目覚めた俺は、いつまでも話していたがった。話しているうちに、話の種が必要になった。話の種を集めるには、秘密が付いてまわった。秘密を作るために、信用を得なければならなかった。信用を得るために、俺は人間を追求した。人柄、能力、容姿。自分に合う自分を見つけるための努力を惜しみはしなかった。
 一番意識して取り組んでいたのが、「人間観察」だった。評判、噂、人間関係。人と人とのコミュニケーションを円滑かつ良好に保持せよ、共に共謀せよ、といったところか。
 そこで貼られたレッテルが、「情報屋」。あまり褒められた評判じゃないけれど、全くの嘘って訳じゃないから、妥協している。それに、それを元に俺を頼る奴だっているんだ。その辺も加味すればまあ、許容範囲かな。
 俺が知りたいと思うことは、人が知らないだろうと思うことだ。付け加えて言えば、「人は知らないけれど知りたがっているだろう」という類のもの。狙うは、話したくて話したくてたまらないと思っていそうな人間。
 例えば、こんな感じ。

「よお上嶋うえしま、聞いたぜ。今回クラス一位だったって?」

 これは、先週実施された中間試験のスコアの話だ。別に彼が一位だという噂を聞いたわけではない。耳に入ってくる教科ごとの成績の合計を考慮した上で俺が出した予想に過ぎない。外れてはいないと思うけど。
 その証拠に、彼は照れたようにはにかんで言った。

「うん……まあ、今回は四ノ倉しのくらさんが調子悪かっただけだから……ツイてただけだよ」
「へえ、あの四ノ倉さんが。よく調子悪いって分かったな」
「うん、実は四ノ倉さんの物理の答案、ちょっと見ちゃったんだ。いつもは九〇点代も楽勝なはずなのに……。ちょっと気の毒だったかな」

 よし、この辺でいいだろう。
 情報を聞き出す心得の一つ、欲張らない事。

「そっか、でも次も負けんなよ! ってか、俺も人のこと応援してる場合じゃねえや」
「ありがとう」

 礼を言われる筋合いは、ない。俺のスコアは三位だ。



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