「これはこれは、こんな所で出会うとは」
はっと気が付いたら目の前に不思議な青年がいた。
ここは周囲が白で囲まれた空間。
私は地に足をつけた感覚があるから、ここを空間と呼ぶが…
もし、なにもなかったらと思うととても危うい場所のように思える。
突然見知らぬ男性……と言っても「彼」は一見すると儚い、女性のようにも見えるのだけど……が現れたら誰だって驚くだろう。
私なんて、驚きすぎて声が出なかったので、彼が口を開いてくれてある意味安心もしたものだ。
ともかく、目の前の青年──青銀の髪、柘榴のような紅い瞳を持つものは笑みを浮かべ。
そして私に着席するよう促した。
視線の先には、たった一脚の椅子がある。
まるで、私のためだけに用意されたような…。
「ご名答、なかなか賢い方ですね」
いえ、私が賢いだなんて御冗談を!
…と、あれ?何故ワタシの考えていることが?
一言も口にしてはいないはずなのに。
「さて…?貴方は何をお望みですか?」
彼はあろうことか、私の問いに問いで返すのだ。
気がつくと目の前に整列している、煌びやかな宝玉たち。
赤、橙、黄、翠、蒼…まるで虹をかたどったよう。
「貴方のお望みの『夢』へとご案内いたしましょう」
夢?夢ですって…?
「ええ、ここは狭間の空間。貴方は迷い込んできたのです」
もっと言えば、この場所には『夢』を望む者が彷徨い出でる。
何故そんな事がわかるかって??
青銀の髪を持つ、『夢売り人』は言を継ぐ。
「簡単なこと、私もかつてここに迷い込んだ当事者だから」
夢を望む、迷い子たち。
支えがなければ悪夢につかまってしまう。
その前に、私が道案内をして差し上げましょう。
彼はただ、微笑みを浮かべているだけ。
答えを、未来を決めるのは他ならぬ自分自身。
そう、目で告げているだけだ。
「──もしや仕掛けがあっては困るわ。順番に見て決めてもいいかしら?」
これは珍しい、疑うのですね…私の言葉を。
確かに突然目の前に知らぬものが現れては、疑うのも道理。
「お好きにどうぞ。ただし悪夢に捕まらぬよう十分ご注意を」
───そうして、私は目の前の宝玉に手を伸ばす。
一時の『夢』を選ぶために、今この場所から旅立とう。
さあ、ここからが『夢』の時間の始まりだ。