十月六日
 十月六日、月曜日。
 この土日、一切の外出をしなかった。やはり、生徒――とくにクラスメイトと会うのが、嫌だった。
 今日も図書室登校。サガさんと、読書の話題で盛り上がった。
「ユキヤくんは、どんなジャンルの本が好きなの?」
「そうですね……家族小説とか好きです」
「家族小説、僕も結構読むなあ。ファンタジー小説とかは読む?」
「あんまり読まないですね」
「今度、読んでみるといいよ、意外と面白いから……それにしても、ユキヤくんを見てると、僕の中学生時代と被るよ。図書室が大好きなところとか」
 僕の中学生時代と被るという言葉に、すこしひっかかるものがあったが、あえて触れずに、言葉を返した。
「サガさんも当然ですけど、読書が好きなんですね」
 慌てて言葉を返したから、とんちんかんな言葉を返してしまった。
「当然でしょ、だから司書やってるんだよ」
 サガさんは、特に何も気にしない様子だった。
 サガさんとなら、森をさまよえる。そんな気がしていた。



 日が沈んでから、一時間くらいたって、両親が帰宅した。父は僕に、ダイニングテーブルに座るように言った。
「ユキヤ、今日の話し合いの内容を……」
「ちょっと、父さん、もう言うつもりなの?」
 母が、父を止めにかかった。よほど、厳しい話し合いになったのだろうか。
「ずっと、隠し通せることじゃない」
 そう言うと、父は、僕の目をじっと見つめた。
「ユキヤ、これから話すことが現実だ。どうか、冷静に聞いてほしい」
 僕は黙って、うなずくことしかできなかった。
「まず、予定では加害者の親――ハルヒコくんたちの親のことだ。その親たちも出席する予定だったんだが、突然急用が入ったとかで、全員、欠席した。それで、父さんと母さん、それにカトウ先生、ナガタ先生の四人で話し合ったんだが……ユキヤ、おまえにはまだわからないかもしれないが、話し合いは当然のことながら平行線だった」
 僕も、もう中学三年生だ。当事者がひとりでも欠ければ、話し合いが平行線になることくらい、容易に想像がつく。
「学校としては……いじめはなかったことにしたいとのことだ」
 衝撃だった。衝撃的過ぎて、なにも言葉が出てこなかった。
 大きな嵐だ。大きな嵐が、森に吹き荒れる。
「そのかわり、出席日数にかかわらず、内部進学はできるようにするらしい。ただし、クラスはそのままあがるそうだ」
 悔しさを噛みしめるかのように、絞り出すような声で父は、僕に言った。
 ショックだった。学校は、こんな対応しかしてくれないのか。ひとりで泣きたくなって、寝室へ走った。
 ベッドに寝転がって、枕を顔に押し付けた。枕が濡れていくのが、確かにわかった。
 学校に失望した。僕の持ちうる語彙の中では、この表現が今の心境を表すのに、最適な表現だった。
 この対応が、学校にとってどんなに精一杯の対応であったとしても、やはりショックだ。
 学校に行きたくない。僕はいま、確かに、学校を、完全に、拒絶した。
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