真っ暗闇の邂逅

真っ暗な夜。点々と夜空に星が浮かぶ日。真夜中の大学で彰仁は見覚えのある姿を見かけた。喫煙所に座る彼女の唇から洩れたのは、聞き覚えのある曲調と聞き覚えのない歌詞だった。


「Surely what will I be tomorrow even if I do it if I die without anything saying to you?」

―明日もし僕が 死んでしまうにしたって
きっと僕は 君に何も言わないままなんだ


Callingと題された彼らの作ったメロディーが、彼女の口から、違う言語で流れ出てくる。階段に腰かけて、たばこを口にくわえながら、彼らには出せない音色がその空間に溢れ出していた。




「里田さん?」


「あ、アッキーさん。どうもです。」

彰伸が声をかけると、彼女は彰仁に気づき、歌うのをやめ、そちらを向いた。

「里田さんって、たばこ、吸うんだね。」

「まぁ、ちょっとしたかっこつけですよ。」


そういうと由希乃は人差し指と中指にたばこを挟んで、ふーっと紫煙を吹いた。その傍らには、彼女にしては珍しくギターが置いてある。


「ギター?珍しいね。」

「ああ、友達に貸すために持ち出してきたんです。私は一曲しか弾けないんですけどね。」


そういって、ギターケースを由希乃は撫でた。


「何か弾いてよ、せっかくだから。」

「だから、一曲しか弾けないんですってば。」

「それでいいからさ。」


曲を披露することを渋る由希乃を説得した彰仁は、由希乃の近くへと座り込む。



「ちょっとだけですよ。」

ギターなんて何年振りかなぁ、といいながら、ケースを空けギターを構えると、そばに置いてあった2つのおいてある箱の緑色の方からたばこを一本取り出し、火をつける。

ゆっくりと周りにくすぶるたばこの香りとともに、彼女は歌いだした。





Where are you who read this character string?
Memory disappears and is encoded by record.
Although my memory is still untouched, is your memory ending with encoding?
It is a thing as which a corner may be sufficient if you please.
Please leave as record that it was with me.
Because it can make a living henceforth if I consider only that moment.
Because I can live only in your memory.
Please put this happiness on a desktop, developing.




ぱちぱち、と一人分だけの拍手が大学内に鳴り響く。


「うまいじゃん!」

「いやいや、失敗してましたからね。」


ギターを大事そうにケースにしまうと、消えてしまったたばこを灰皿に入れ、今度は白い箱から煙草を取り出した。


「今の、なんていう曲?」


ふぅっ、と新しい煙草に火をつけて、ゆっくりと、由希乃は息を吐いた。


「男はロマンスを失ったために愛を思い出す。」

「えっ?」

「この曲の邦題ですよ。MARLBOROって曲なんです。たばこの銘柄の。」


まるぼろ、と彰仁は繰り返した。たばこを吸わない彼にはそれがどんな銘柄なのかはわからなかった。




〜真っ暗闇の邂逅〜


-------
あとがき
本編よりも先に登場する少女、里田由希乃さん。
存在からしてまったくの謎である(決まってないだけともいう)。
裏話に由希乃の裏話追加しておきます。

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