12.告白

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 聞きたいなら、聞きに来ればいい----咲間さんのそのセリフは、僕にとって不穏な響きしか持っていなかった。咲間さんは僕と対面するまで本題をちっとも教えてはくれない上に、こんな風に呼び出すときはいつも左良井さんに関わることに他ならない。だから会わないわけにいかないのだ。
(つまり、『僕は呼び出されたら咲間さんに会わずにはいられない』ってわけだけど……)
 僕からしてみれば、咲間さんの方が相手に対する強制力という点で僕よりもずっと強い気がする。それでも何かあったときに責められるのは僕なのかな。
 指定された講義室はいつもの場所。咲間さんは先に待っていて、文庫本から目をあげたところだった。
「また、何かあった?」
 正直、左良井さんが関わると分かっているだけに、気が気じゃないのだ。左良井さんはもう十分に傷ついた。僕に心を寄せてしまったがために好きな人とも別れ、それなのに僕の思いの至らなさに疲れて僕と一緒にいられなくなってしまった左良井さん。もうこれ以上何が彼女を傷つけるんだろうと思うと、僕が関わらなければいいのだと思ってこうして過ごしてきた。僕から離れた左良井さんは、だからもう、傷つかなくていいはずなのだ。
 僕だって、彼女のためになにかできるなら何でもしたい。でもその全てが裏目に出る。それが僕の人格の問題であるから始末に追えない。
「あったよ……最悪の事態がね」
 表紙を閉じて腕を組む咲間さんのいつもの体勢には、しかしながらどこか落ち着きがない。
「……」
 昨夜の出来事を思い出して言葉がつまる。幾つもの「もしかして」の先が分からないのだ。
「なに、思い当たる節がありすぎて分からない?」
 平常より強くなる咲間さんの語気に、少し怯んだ。
「自称『君の未来の彼女』って言う人が、まーちゃんに近づいてきたわ。もう……見ていられなかった」
 それだけで話が掴めるはずもなく、僕は咲間さんに詳細を求めた。





 丁寧にまとまった話を聞いて、咲間さんはこの事態があったときからもう僕に報告するつもりだったのではと思った。
 つまりは、こういうことがあったのだという。


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