7.一年生冬

43

 朝起きたときにカーテンの隙間からこぼれる日の光の、明るいことだけはいつも変わらない。身体に当たるほとんどの光を遮ることで効果的に得られる睡眠という行為の必要不可欠さを考えると、光は時に人間を傷つけるものなのかもしれないと少し憂鬱になる。眩しすぎる光は、毒だ。

 ひとり暮らしの一日は家族とのそれよりも長いと思う。僕が起きただけでは僕の周りは何一つ動きはしない。ベッドのシワを簡単に伸ばしながら、表情筋を伸ばすようなあくびを一つ。まだ起きない頭に聞かせるつもりでテレビをつける。リモコンの電源ボタンを押すだけで画面に映るのは礼儀正しいスーツ姿のアナウンサー。僕のテレビチャンネルの標準はNHKだ。

『次のニュースです。昨日……』

 昨日は晩御飯を済ませてから今日提出のためのレポートに手をつけてそのまま寝てしまったから、ニュースを見ていなかった。心の痛むニュースが多くなってきたと言われ始めてからもう何年が経つんだろう。アナウンサーの緊張した面持ちは、一種の技術のような、ベテランかどうかを見分ける程度の効果しか持たなくなっている気がする。

 パッと画面は切り替わり、趣ある外壁の建物が映る。テロップに目を走らせると、僕は瞬間、音声情報を忘れて見入ってしまっていた。

『カンニングの疑い、21歳男逮捕』

 さらに画面は切り替わる。たくさんのフラッシュを浴びながら、黒い上着のようなもので顔と手元を隠された男が中型の車の後部座席に乗り込む。

『男の供述によりますと、「去年同じ大学を受験した先輩が同様の手口で入学したのを聞いて、自分もやってみたくなった」とのことで……』

 抵抗することなく、ただ両腕を両脇の男に固められたまま乗り込んでいく容疑者。

『警察はその容疑者の先輩と見られる人物についても捜査を勧めるとの事です……』

 カメラから目線を少しずらして、誰か≠ノ訴える専門家のカットに移る。無機質な声色に胸騒ぎがする。僕はある人の顔を思い浮かべる。

 ――私は、失敗していなかったら、ここにはいないの。

 一度だけ聞いた彼女の出身地は、奇しくも問題の大学がある県だ。

『では次のニュースです』

 アナウンサーのその声調は、つい数分前に聞いたものとさして変わらないものだった。


[45/121]
←BACKTOPNEXT→

しおりを挟む



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -