4.研修旅行

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 バスに揺られて小一時間。学科の研修旅行は大学付近の宿舎で例年通り執り行われた。ぷしゅう、と空気が抜ける音とともに前方のドアが開く。一番前の座席に座っていた僕は一番に車外に出た。新鮮で無臭の空気は少し元気をくれる。

「ひどい顔ね」

 横目にふふっと笑われた。そのまま颯爽と僕の横を通り過ぎるかと思ったら、左良井さんはそのまま並んで歩く。

「左良井さんは酒に酔ってもバスには酔わないんだね……」

「一言多いわよ」

 乗り慣れた電車とそうでないバスとでは、乗り心地が全然違う。上下左右に大きく振られて僕は頭痛を伴う吐き気に見舞われた。

「少し吐いてしまった方がいいかもね。何かあったら永田くんに言えばいいわ」

「そうする……お気遣いありがとう」

 ひとまず少し休ませてもらおう。宿泊する部屋を引率の教授に聞き、みんながレクリエーションしている間、僕はベッドでお昼寝タイム。

 研修とは名ばかりの、親睦を深めるのが目的のこのイベント。クラスを名簿順に班ごとに分け、雰囲気はまるで団体旅行だ。

 今までは親に酔い止めを持たされていたけど、一人になるとどうも細かいところまで気が配れない。準備不足を悔やみながら、呼吸のリズムを掴むことに集中する。こういうのはもう、慣れてるんだ。





 控えめにコンコンとノックされた扉の音で、眠りから覚めた。

「もしもし、越路くーん。飲み物買ってきたわよー?」

 この声は……。

「悪いね、気を遣わせて」

「いいのよ別にー」

「その裏声を止めてくれたらありがたく受け取る」

「あら……せっかく左良井さんの真似をすれば元気になると思ったんだけどなぁ。ま、無理があったか」

 気持ち悪いなとは思ったが、左良井さんの声マネだったのか……。体を起こして永田から水を受け取る。腹に力を入れた瞬間、少し吐きそうになった。まだ完全回復というわけにはいかないらしい。

「せっかくの旅行が台無しだなぁ。あれだろ、修学旅行前に熱出すタイプ」

「いや、違う」

 修学旅行でいろんなところに行ったけど、いい思い出はあんまりない。

「修学旅行中に熱出すタイプだった」

 そうなのだ。以前から僕は、現地についてから何かしら不調を訴えるような生徒だった。現地の病院にお世話になって、薬をもらったこともある。

「あはは、ついてねー! ま、夜の親睦会に出るか出ないかは体調と相談して、今日は病人なりに休みながら楽しんでくれよ。なんかあったらなんでも言えばいい」

「ありがとう……まあ、大人しくするつもりだよ」

 時計を見ると、どうやら部屋にきて横になってから一時間は軽く過ぎていたらしい。

 親睦なんて、一日じゃとても深められないだろう。期待なんかはなからしていない。大人しくしていれば、とりあえず不調以外の要素は寄りつかないだろう。

 永田から受け取ったドリンクで口の中を湿らせると、僕は再びベッドに体を横たえた。


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