13.仲良し三人組

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 インターホンが鳴らされる。ここに住んでから三人目の来訪者だ。
「死にそうな顔してんなあ。なんか食えそうなものでもあるか?」
「永田……悪い」
「まあしゃべんなって。寝てろ寝てろ」
 永田、といつものように呼んだ。振り返る永田の表情はやはり、いつもどおりだった。無駄な世間話なんてもう要らない、僕は永田の背中に問いかけた。
「人を傷つけた人が全員、裁かれると思うか」
 はあ? と永田は振り返らずに聞き返す。
「……現に傷つけるの意味があまりに広すぎるだろ。いちいち裁いてたらお前の腹ン中の細菌まで裁判所に呼ばれることになるぞ」
「細菌は人じゃない」
「例え話だよ」
 僕が何を話そうとしているか知らないくせに、気を遣ってくれているのだろう。
 でも、僕は話したい。
「僕は、人を殺したことがある」
 レジ袋からあれこれと取り出す手を止めた永田は、返す言葉を探しているようだった。僕はそれを待たずに言う。
「法律の上で僕は裁かれることはない。でも、どう考えてもやっぱり、彼女を殺したのは僕なんだ」
 ごくり、唾を飲む音が聞こえた。
「……そこに小包があるだろ。開けてくれないか」
「え、俺が?」
「頼む。中身は開けなくても分かってる。でもどうしても自分じゃ開けられないんだ。はさみは机の上」
 じょきじょき、と封が開けられる。一年以上前の空気に混ざってバサバサと出てきたのは、写真の束だった。永田がまじまじとそれらを見て、ああ、と嘆息をついた。
「仲良し三人組、ってとこか」
 あの日から今まで僕は僕の過去を拒み続けていた。でも、拒み続けるにはあまりに重い思い出だ。
 あの頃のことを思い出すのに、この部屋は十分静かだった。


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