1.転校

はじまりは

「 じゃ、沙織、行ってくるわね。夜の10時には帰るから」

母は一流歌手、父はギタリストだった。

その日、たまたま母と父は沖縄での新曲の発売ショーに出演しており、2人で一緒に日帰り出張することになっていたのだ。ルルは留守番が苦手なので、美佳子が連れて行ったのだった。

天気はいいが、風が強く少し肌寒い日曜日だった。

沙織はいつものように空港の屋上に登り、母と父が乗った飛行機が飛び立つのを待っていた。

やがて、一機の小さなプロペラ機が飛び立った。母たちは有名人のため、なるべく小さな飛行機で出張することが多い。また、父が個人的にプロペラ機が好きなこともあり、2人はいつも決まった旅行会社のプロペラ機で旅立っていった。
おかげで沙織は、どの飛行機に自分の父と母が乗っているか、聞かなくてもわかるようになり、こうして一人で屋上で見送ることが出来たのだった。


その日もすぐに、この飛行機が2人を乗せた飛行機だと直感し、その一機が空高く消えてしまったのを見届けたところで沙織はすぐに屋上に背を向けた。

と、その時。

背後でドーンという爆音と屋上にいた人たちの悲鳴があがった。沙織は驚いて、先ほどまで自分が立っていた場所へかけ戻った。見ると、ついさっき飛び立ったはずのプロペラ機がぐちゃぐちゃに潰れ、炎上している。

沙織は目前で何が起こっているのか理解出来なかった。


それからのことは沙織はあまり覚えていない。


事故後、すぐに父と母が亡くなったことを伝えられた。
テレビをつければ、『9月23日、午前9時頃、歌手・福山美佳子とその夫であるギタリスト・宇都野隆二を乗せた沖縄那覇空港行きのプロペラ機が墜落し、乗務員と乗客の全員が死亡しました』とその事故のニュースばかりをしつこいくらい流し続けていた。

沙織はただ呆然としていた。祖父が何度となく家に来てくれたようだが、それもあまり覚えていない。

気がつけば半月ほど経っていた。ようやく生気を取り戻した沙織に、祖父が言った。

「わしの娘でお前の叔母に当たる、恵理子のところで暮らしてみんか?場所は長野。少し東京から離れて暮らす方が傷が癒えるかもしれんじゃろ?」

確かにその通りだった。

あれほどニュースで報道されたのだから、東京中、いや関東じゅう探しても、自分の両親が死んだことを知らない人はいないだろう。
ならいっそ、ど田舎でテレビもないようなところで新しい生活を始めるのもいいかもしれない。小さいころ、一度だけ恵理子おばさんに会ったことがあったが優しそうな人だった。沙織はそう思い、少しわくわくした気持ちで了承した。そして、今に至る訳である。

***

そんなことをぼんやり考えているうちに、ふと恵理子が言った。窓の外は本当に田舎で、田んぼと畦道しかないようなところだった。

「沙織ちゃん…今度の学校のこと、どのくらい知ってる?」
「どのくらいって…女子校だってことと部活がないこと…あと、勉強には結構力を入れているんじゃなかったっけ?」
「そうそう、でも実はね、今妙な噂が立っているのよ」
「妙な噂?」
「うん、どうも…いじめがあるらしいの…」
「い、いじめ…?」
「う、うん、でも噂に過ぎないから気をつけてねって程度で…ね!」

恵理子の様子から沙織はこの噂がかなり現実に近いことを知った。いや、むしろ噂はまだ
ましな方だったのだーーーー。

しかし、この時の沙織には、そんなこと知るすべもなかったのだった。


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