苦労人




「ばるこ!今日の夜、暇か?」
『あ、浜岡さん、お疲れ様です。暇ですよ。』
「みんなで飲みに行くんだけど、お前も来いよ。」
『いいですねぇ、考えておきます!』










苦労人









多摩川競艇場。


本日は一般戦の最終日だった。
ばるこが丘の上の仕事をしていると、ばること同じ東京支部の先輩に当たる浜岡に、飲み会に誘われた。


お酒大好きなばるこ。
本来なら、ばるこは二つ返事で承諾したかったのだが、出来なかった。


それは何故かというと―――



「ダメ。絶対にダメだよ、ばるこ。」
『だって、同じ東京支部の人達だよ?』



ばるこの恋人である、群馬支部の潮崎俊也。

ばるこは東京支部なので、お互い同じ場所でレースがあるか、オフの日でないとなかなか会うことができない。

そのためか、彼はばるこに関してかなりの心配性なのだ。



レースも終わり、選手は散り散りに帰っていく。

ばるこはまだ、浜岡に返事をしていなかった。



「萩原さんや光瀬さんがいれば少しは安心できるが…」
『うん、そうなの。麻琴もあきらちゃんも今回はいないの。』
「なら、やっぱり許すわけにはいかないな。それに…」
『何?』
「波多野君が一番危険だ。」
『まぁ、女好きだっていう噂は止まないけど、本当は真面目な子だよ?』



潮崎はいつかの新鋭リーグで、彼女がいるはずの波多野がリポーターの香子さんに、手こそださなかったがデレデレだったのを思い出す。



「浜岡さんだって、すぐ酔ってばるこに手を出しそうだし。」



そして、以前ばるこが酔った浜岡におしりをさわられたと言っていたのを思い出すのであった。



『江上さんや多尾さんは分別のある人よ。』
「そうだが…いや、危険だ。なんせ彼らは男だからね。」
『男は狼って?はは。』
「とにかくっ!今日は行ってはダメだっ!」



潮崎は何がなんでも、ばるこを東京支部の飲み会には行かせたくないようだ。

ちょっと反感を買うものの、ばるこは潮崎に余計な心配をかけたくない。



『じゃぁ、今回は行かない。…俊也はこれから暇なの?』
「う、僕は岡泉さん達に誘われてて…」
『じゃぁ、それに私も連れてって!』
「そ、それは…」



潮崎はばるこから目を逸らす。



『何、いかがわしい所にでも行くわけ?』
「そういうわけではないんだけど…」
『へぇ?』



美女美男子カップル。
周りがそう呼ぶほど、ばるこは潮崎に負けず劣らず整った顔立ちをしている。

さらに、時たま見せる可愛らしい仕草とサッパリとした性格も手伝って、ばるこを狙う男子レーサーも少なくない。

その代表とも言えるのが、ばるこの先輩に当たる浜岡や、潮崎を飲みに誘った岡泉だ。



「じゃぁ、岡泉さんとは話さないと約束してくれ。」
『んな無茶苦茶な!!』
「じゃぁ連れて行かないっ!」
『す、拗ねた―――!』



確かに、岡泉のばるこへのアプローチはおおっぴろで豪快だ。

潮崎を前にしても、ばるこに近すぎるほど近づくわ肩を抱くわで、揚げ句の果てには俺の所に来い。

酒の入ってるときに限るが、その度に、潮崎は表面上は辛うじて苦笑いを保っているが、内心はめちゃくちゃ怒っている。

ばるこはというと、笑いながらも軽くかわす。

最近は話を軽く流すのもお手の物となってしまった。



『もぉ。大丈夫、私は俊也の他に誰も好きにならないから。…まぁ根拠は無いけど。』
「一言余計だよ…。」
『まったくー、ホント心配性なんだから!根拠は無いけど…でも、俊也が捕まえていてくれたら、私はどこにも行かないよ。知ってるでしょ?』
「ばるこ…そうだな。」



ギュ。



潮崎はそっと、ばるこを抱きしめる。
そして、腕の力を弱めると、ばるこが目を合わせてくる。



この雰囲気は―――







「こっ、こんなところで破廉恥やぞ!!」
『「おっ、岡泉さん!!!!」』
「し、潮崎が何や遅いしよぉ、迎えに来てやってみたらお前らっ…!」
「ふふっ、あと少しだったのに残念だな。」
『あわわわわーーー!』



驚きの余り硬直する岡泉、そんな彼を見て心底嬉しそうに微笑む潮崎、そしてただあたふたとするばるこ。



そして、もう一人…


「やややややっべー、潮崎さんとばるこさんのキスシーンを見てしまった…!」


顔を真っ赤にする、波多野。
浜岡に言われ、ばるこを迎えに来たのだ。



「萩原のねーちゃんも来ることになったからばるこ先輩を呼びに来たんスけど…」
『波多野君…!いや、確かにぶっちゃけ私もチューしちゃおっかなーっていう雰囲気だったけど、してないの!寸止めなの!未遂なのぉぉ!!!』
「ばるこ…何もそんなすごい勢いで否定しなくたって…」
『っていうか、麻琴も来るの?』
「どーせばるこ先輩以外に女性メンバーがいなかったら、あの気難しい彼氏が許さないだろうって。」
「ほほぉ、気難しい彼氏ねぇ、潮崎?」
「くっ…周りが岡泉さんみたいな人ばっかりですし?」
「どういう意味や!?」
『でも、麻琴が来るんだったら、私東京支部のみんなと行って良いよね、俊也?』
「ああ…分かったよ。」
『やった、ありがと!じゃぁね、また帰ったら電話するからね!』



電話すると言っても、どうせまた酔っ払って、散々、普段は恥ずかしがって言わないことを一方的に話しては電話の途中で寝るのだろう。ズルイやつだ。


そう思いつつ、潮崎はばるこを見送るのであった。



「じゃ、他のメンバーも待ってることやし、ワシらも行くか、寂しいモン同士のぉ!」
「僕は寂しくないです!」





++ END ++





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