125 睦言 (※15歳以下の方は飛ばして下さい)

夜、布団に入った斎藤は、千恵が再び手にした瑠璃色の数珠を、ためつすがめつ眺めていた。

じっくりと見るのはこれが初めてだったが、珍しい石を使い家紋が彫ってある以外は、何の変哲も無いただの数珠だった。

「正直に言うと、これを手にした途端お前が消えてしまわないか、少々不安だった。

 強く念じなければ大丈夫なはずだ、と思ってはいたが……」

「ええ、大丈夫です。なんで言い切れるのか分からないけど、直感、かな? 分かるんです。

 これを八千代さんから受け取った時、ああ、これで私とはじめさんの輪が完成したんだ、って感じたの」

パズルに最後のピースをはめた気分だった。後は……戦を駆け抜けるだけ。

千恵は斎藤から数珠を受け取ると、枕元に置いてその身を斎藤の腕の中に預けた。

伏見で開戦以降、ようやく少し落ち着いた状況になった今夜。

二人で一つの部屋を貰って、斎藤としては少なからず期待していた。

腕の中で温かさと共に漂う千恵の香りに、情欲が湧き上がる。

「千恵、抱いていいか?」

「愛して……くれますか?」

その求めるような口振りが、男の奥にある熱を煽る。斎藤は身を起こすと、千恵に覆い被さり、耳元で囁いた。

「無論だ。愛がなければ抱かん」



斎藤は千恵の夜着を解きながら、鼻先で頬を掠めるように顔を移動し、その唇に己の舌をそっと這わせた。

羽根で触れるように優しく、誘うように焦らすように、千恵の唇が自然に開くまで。

千恵はもどかしさと恥ずかしさに焦れながらも、何かを期待するように斎藤の舌を迎え入れた。

温かい舌が深く差し込まれ、息が苦しくなるのと同時に、柔らかな感触が口腔で優しく千恵を愛撫し始める。

ゆっくりと、何かの動きを思い出させるように舌を動かされると、身の内に甘い痺れが走った。

少し硬い指先が夜着の内に滑り込み、柔らかい膨らみを求めて肌を辿っていく。

斎藤の指は形を楽しむように稜線をなぞった後、更に火を点すべく、胸の先に優しく触れた。

「あっ……ん……」

「千恵、声は堪えろ」

斎藤は唇を離すと、窘めるような事をいいながらも、その甘い声を嬉しく思っていた。

自分の愛撫に敏感に反応する千恵の素直な体を、静かに愛でつつ、周囲の人気には気を配る。

……隣りは確か、島田と尾形か。一番気配に聡い連中だ、余り大きな声を出させるわけにはいかない。

だが、堪え切れずに出る声を防ぐのは難しい。……部屋の順が悪かったと諦めて貰おう。

斎藤は、雑念を払うように周囲の気配を読むのをやめると、唇を胸元に寄せていった。

千恵は熱に浮かされたようにボウッとなりながら、優しく吸う唇と小さく遊ぶ舌に翻弄されて、身を震わせた。

体の中で血が巡り、足の先まで温かさで満たされていく。知らず甘やかな吐息が漏れた。

やがて指先が千恵の羞恥を掻き乱す深い部分に差し掛かると、いつもの事ながらつい軽く膝を閉じてしまう。

すると胸元に絶え間なく刺激を与えていた斎藤の唇が離れ、少し不満そうな声で千恵に問い掛けた。

「何故恥らう必要がある? 足を閉じられたら愛せんだろう?」

「だって……恥ずかしいんです」

乱れることがか? 触れられる事がか? それとも見られることが、だろうか?

既に幾度となく見て触れているのに、いつまで経ってもほんの僅かに抵抗する様が不思議だった。

けれど。深く愛撫すればそんな羞恥の飛んでいってしまう事は、もうとっくに知っている。

ならば……勝手に進めた方がいいか。

くいっと膝を開けるとその間に体を入れ、斎藤はお構い無しに行為を続ける事にした。

案の定、斎藤の指先に触れる感覚は、千恵の体の方が素直だと教えてくれた。

しばらくの千恵体の外と内を優しく手で愛し、上気した頬や乱れる息遣いを眺めて楽しんだ後。

その尻の下に手拭いを敷いて、内腿の間に顔を寄せていった。

「んんっ!」

ああ、やっぱり声は漏れてしまうな。

それが自分のせいだと分かっているから、困りながらも嬉しくなってしまう。

斎藤は遠慮なく唇で千恵の熱を煽りながら、欲に急かされるように奥を舐め上げた。

千恵の理性が次第に溶けてゆき、斎藤の舌と指の与える感覚に、体は力んだり反ったりしながらも高みに上り始める。

斎藤はそのまま一度千恵が小さな悲鳴を漏らすまで顔を上げず、湿気の篭った雌の箇所を貪り続けた。

細かく跳ねた体が弛緩するのを確認してから身を起こすと、今の余韻とこの先を期待している柔らかな体に身を添わせる。

「いかんな、抑えがきかん。痛まんよう気をつけるが……限界だ」

まだどこかぼんやりとしている彼女の腰を捕らえると、斎藤は熱を求めてその身を沈ませた。

「ふぁっ!!」

斎藤が困ったような顔をしながらも口元を緩ませて体を揺らし続ける間。

千恵は抑えの効かない悦びの声を、自分の手で塞ぎながら漏らし続けた。



「仕方ないだろう。大丈夫だ、もう皆寝入っている。それに……俺は嬉しい」

理性が戻って羞恥に頬を火照らせる千恵の髪を掬いながら、斎藤は宥めるようにその唇にそっと口付けた。

唇の柔らかさが気持ちよく、腰がゾクリとする。……また欲が湧いてきそうだ。

「だって、気配に聡い人ばっかりだもの」

「それは敵の気配に、だろう? 大丈夫だ。変な態度を取らん方がいい。朝には普通にしていろ」

……本当は敵だろうが仲間だろうが、深夜の人の気配には、ここの連中はしっかり反応する。

安心させる言葉と裏腹の事実は伝えない方がいいだろうな、と内心苦笑しながら、斎藤は千恵の胸元に吸い付いた。

「は、はじめさん!?」

「……大丈夫だ、問題ない」

何の問題がある? 俺達は夫婦で、それは周知の事実なのだから、気にする必要などないはずだ。

斎藤はちょっと身勝手だと自覚しつつも、千恵の色気に酔うように、柔らかな肢体をまさぐり始めた。

「声は……控えてくれるか?」

「ん……無茶ばっかり言って……あっ」

「ああ、だが少し……もう一度だけだ」

千恵と己の香りが混ざり合う布団の中。再び猛る自身を感じながら、斎藤は千恵を縫いとめるように見つめた。

視線が絡まると、その奥に猛る男の愛と熱を、目で伝える。お前が欲しい、と。


千恵は心臓が早鐘を打ったように忙しく動き始めたのを意識しながら、欲の色を濃く映した斎藤の目に、魅せられた。

逞しい腕。引き締まった胸と腹部。そして……腿に当たる熱のストレートな要求。

欲しい、と求められて。拒めるはずがない。

頷く代わりに首に手を回し、斎藤の顔を引き寄せて瞼を閉じた。

斎藤は口付けを待つその顔が愛おしく、ついさっきの行為で汗ばんだ肌に手を這わせながら、唇を寄せていった。


愛を交わそう。

求めよう。

与えたい。

俺達の心と体は、繋がる運命なのだから。



互いの熱を分け合うように絡まり合い。

甘い吐息の漏れる寝間で。蒼い数珠は枕元にあった。





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