97 逢引 (※15歳以下の方は飛ばして下さい)
緩く待ち受ける唇に舌を入れると、千恵の熱い吐息が漏れ、その甘やかさに男の本能が目覚める。
斎藤は目を開けて帯の結び目を確かめながらそれを解いていった。
胡坐の股に千恵の尻を滑り落とし、着物と襦袢を開くと、羞恥からか千恵は身を隠すように擦り寄った。
斎藤は絡めていた舌をそっと抜き取り、やんわりと下唇を食むと、着物の胸元から手を滑り込ませた。
「んっ!」
久し振りで刺激が強いのか、乳房を可愛がると千恵の体がピクンと跳ねて、顔は堪えるように眉を寄せている。
「我慢するな、ここは声を堪えなくていい場所だ。……綺麗だ」
斎藤は千恵の襦袢を肩口まで寛げると、そのまま足元まで大きく広げて、露わになった肢体に手を滑らした。
しっとりと滑らかで、薄暗がりにぼんやりと浮かび上がる白さに、目を細める。
込み上げる熱いものを抑えるように息をつくと、体をずらして千恵をそっと布団に横たえた。
胸元を押さえて隠そうとする千恵に首を振り、その手をどけるように促すと、ようやく諦めたように力を抜いた。
斎藤も、昼日中に仲間を外に待たせて女を抱くなど、初めてだ。色々考えると恥ずかしい。
千恵はもっとだろうが……着物と襦袢を千恵の下から抜き去ると、そんな些末な事はどこかに行ってしまった。
千恵の横に座し、曲線を確かめるように、凹凸のある体に視線と手を彷徨わせ、指で遊ぶようによい所を軽く撫でる。
焦れたようにくねる様が愛おしくも艶かしく、体を添わせて唇を這わせたいのを堪えて眺めを楽しんだ。
千恵が目を瞑って任せているのをいいことに、乳房の先をつまんだり、内腿の奥に刺激を加えたり。
息を乱し小刻みに上下する胸元が美しく、左手の指は次第に熱さを求めて奥へと入り込んでいった。
「んんっ……ああっっ!!」
堪えていた千恵の声が弾かれたように押し出され、斎藤の指は更に声を求めて、包まれる温もりを楽しんだ。
だが、恥ずかしさからか寂しさからか、それとも愛撫の良さにたまらなくなったのか。
千恵はうっすらと目を開けると、両手を伸ばして斎藤を引き寄せようとした。
「はじめさん……ひどい」
「酷くない。幸せ過ぎてどうにかなりそうだ。もっと……力を抜いて甘えろ。可愛がってと言っただろう?」
「あれは……んっ、や……っ!」
まさかこんな風に盆屋で公然と情を交わすとは、思ってもいなかったんだろう。
けれど責める声も途切れ途切れで、言葉と裏腹に開いてゆく体が、千恵の本音を斎藤の目に指に伝えていた。
斎藤は謝る代わりに軽く口付けると、脇に避けていた掛け布を千恵の胸元に乗せて移動し、腿の内側へ顔を埋めた。
こちらからは丸見えだから、あまり意味はないが……布団でも抱えていれば羞恥も和らぐだろう。
久々だから、本当はもうこっちがどうにかなりそうなんだが、期待には応えんとな?
斎藤は、天霧が去った後に千恵の漏らした言葉を、今まで胸に温めて楽しみに待っていたのだ。
言質は取ってある、好きにして構わんだろう。
千恵の可愛いおねだりを最大限に広げて解釈し、雫を啜るたびに漏れる声と跳ねる体を、存分に楽しんだ。
やがて我慢にも限界が来て柔らかい肉に身を投じると、悦びが突き抜ける。
「「愛してる」」
どちらからともなく声を揃えて気持ちを伝え合った後は、しっかりと肌を合わせて熱に溺れた。
一度では足りず二度目の交歓でようやくひと息ついた斎藤は、掛け布も被らないまま千恵を腕枕に引き寄せた。
「二刻貰っておいて良かった。忙しない逢瀬と別れでは、かえって心残りだからな」
「信じられない……はじめさんはいいけど、私、山崎さんと帰るんですよ!?
土方さんにも夕餉で会うだろうし……とても目を合わせられないです。はぁ、どうしよ」
「だが島田だとお互いずっと赤いままだし、尾形だときっとからかうだろう? 山崎は……まぁ、顔には出さん。
思うところはあっても決して口には出さん男だしな。まだましだ。それにこれは、副長の発案だ」
何度か気をやって汗ばんだ千恵を、胸元にグッと引き寄せて掻き抱いた斎藤は、上機嫌だった。
慰めにならない慰めを言いながら、自分でもどうかしてると思うほど浮かれている。
離れるまで、まだ一刻近くある。積もる話はあるが、それは帰ってからゆっくり話せばいい。
山崎の不機嫌な顔を見る前に、時間の限り「ご褒美」を味わおう。
まだ拗ねる千恵の髪を撫でながら、斎藤の気持ちはもう決まっていた。
「苦情は……帰ってから聞く。すまんがもう少し付き合ってくれ。ククッ、後一回だけだ」
自分のどうしようもない衝動に苦笑しながら唇を合わせると、身を起こして千恵に被さった。
斎藤は、首に手が回されたのを了解の合図と受け取り、千恵の心と体に自分の想いを刻む。
長いと思われた二刻は語り合うには足りず、二人は半年の隙間を埋めるように重なった。
「可愛かった。屯所では聞けん声だったな。盆屋が繁盛するわけが分かった」
「はじめさん! もうっ……知りません!」
「恥ずかしがる事はない、聞いたのは俺だけだ。一生俺だけ、だろう?」
「当たり前です、あ、あんな……はじめさんしか無理です」
斎藤は首まで真っ赤な千恵の頭を撫でて、やっぱり残して死ねんな、と実感した。
帰る間際。斎藤は最後にもう一度口付けて、満足げに笑んだ。
今、日本中で数多の間者があちこち潜伏しているだろうが、きっと俺が一番幸福な間者だな、そう思った。
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