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「不粋な真似を許してくださいますか?」

「……不粋な事はおっしゃらないで」

ためらいの言葉を遮るように、夕凪は彼の頬へそっと片手を添えた。

私も貴方もどうかしている。けれどこの身を縛る枷が外れた今夜だけは。

――太夫でない私を、貴方に差し上げましょう。

心に灯った不確かな想いと、一緒に押し寄せた素直な欲望に身をゆだね……彼女は逞しい腕の中に滑り込んだ。



唇が熱を求めて互いを探り合う。交わす言葉など無用だった。

恋など知らない。あるのは彼を欲しいと思う心だけ。それが罪なら、この雨に洗い流せばいい。

かち合った男の目に宿るのは、切なさと愛おしむような優しさで。

淡雪を溶かすような情熱が篭っていた。

私だけのものになって欲しい。貴方だけのものになりたい。

夕凪は口に出来ない願いを胸に、瞼を閉じた。

唇の柔らかい感触だけが確かなものだった。


貸した着物を剥がし、幻でない事を確認するかのように、白い肌へ手を這わせる。

膨らみの頂きに唇を添え、夕凪の鼓動を聞いた。ヒクリと動く指先が艶かしい。

まさか肌を許すとは思わなかった。けれど自身と彼女の鼓動は互いを求め、早鐘を打っている。

夕凪太夫ではなく一人の女性として、今体を開こうとしてくれている。

その無垢で純粋な熱に……ともに溺れましょう。

山南は心の赴くまま彼女に触れ、潤いを指で愛しみ、舌で味わい、羞恥に染まる肌を抱き寄せた。

反応の一つ一つを目に焼きつけ、深く繋がった自身で己の存在を刻み付けた。

いつしか行灯の油が切れ、暗くなった部屋の中で。

奥を突き上げる男の荒い息と、応えるようにあげる女の嬌声は、外と同じく嵐のように激しく狂おしかった。




夕凪が熱の残滓を纏ったまま、着物を掛け布代わりにまどろんでいると、背中から強く抱き締められた。

朝などこなければいい、と言っているようだった。

体を捻り彼の唇を求めれば、貪るように激しく口を重ねてくる。

穏やかで聡明な彼の意外な猛々しさに、心が翻弄される。

こんなにも切なくて苦しい気持ちは初めてで、まなじりに涙が溜まった。


「……年季が明けたら、押しかけてしまいそうです」

「可愛い事を言ってくれますね。朝まで君を抱き潰してしまいたくなる。

 クスクス、小さな家を用意して待っています。その時までともに励み、二人で幸せを紡ぎましょう」

「敬助さん――」

「朝までは、私のものでいて下さい」

「心はずっと……貴方のものです」


木戸はもう音を立てていない。嵐は去ったようだ。

二人は再び契りを結び、明け四つまでその身を寄せ合った。




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