禍ノ子
 捨猫 / 紫苑


 そのまま片足を肩に担がれて、ベッドに組み敷かれる。勢い良く体が上へ押し上げられた弾みで、ごつんとヘッドボードに頭をぶつけた。

「痛っ!」

 しかし修羅は構うことなく落ちていたタオルを使って、紫苑の両腕を頭上で縛り上げた。圧倒的に不利な体制で裸体を晒される屈辱に、全身を熱が走る。

「馬鹿、あんたなんかお断りだ」
「冗談、俺が仕込んでやったんだ」

 まるで体のラインを確かめるようにじっとりと両手で撫でられ、思わず腰を捩る。
 修羅の朝焼けの色をした瞳は、妖しく揺らめき体の自由を奪う。
 彼には、絶対の支配領域があった。そこを越えると気がつかない間に所有物にされてしまう。身を覆う衣類も、邪魔な自尊心も、無用なものは全て引き剥がされ、まるで従順なペットのように服従を強いられる。
 この危険な男の存在を、何で忘れていたのだろう。
 ぞわぞわと産毛が立つ感覚に震えながら、紫苑は視線だけで喘いでしまいそうな声を殺した。

「犯されたくて、堪らないって顔だな」
「自意識過剰もいい加減に、……あっ!?」

 修羅はまるでおもちゃを手にするように、紫苑の濡れた性器を掴んだ。とたんに押し寄せる期待と恐怖に全身が震える。
 強く根元を掴まれ、そのまま強引に包皮をずり下げられる。露出した濃いピンク色の亀頭は、透明な蜜を纏って濡れていた。親指の腹でそこをなじられ、紫苑は痛覚にも似た刺激にいやいやと腰を逃がす。

「あ、ア、……っひぃ!」

 今度は、わざと剥いた包皮を先端から余るほど大げさに引き上げられる。あまりに乱暴な手つきに、紫苑は思わず息を止めて体を固くした。
 絞り出された透明な粘液が皮の間からとぷっと零れ、修羅の手を濡らしている。
 優しさの欠片も感じられない。
 こんなふうに触られたことなんて一度もないのに。
 紫苑の薄い腹筋が痛みを我慢してへこむのを見て、修羅は下唇を舐めながら笑った。

「睨むなよ。痛いほうが好きだよな? 紫苑」

 修羅は、性器からはみ出した皮を摘んで擦り合わせ、我が物顔で観賞している。

「こんなに余ってるなんて、ガキみてえ」
「あッ、あ、弄んないで……」
「噛み切ってやろうか」
「え?」

 指に摘まれてはみ出した包皮の部分だけが、突然修羅の口の中に納まる。ぐにぐにと歯の間に皮が挟まっているのに気がつき、驚いて腰を引こうとしたが、噛み千切られそうで動けなかった。
 薄い皮は今にも破れそうだ。

「ぁ、いやあぁッ、痛い!」

 突然の理解し難い出来事に、自由なほうの片足で修羅の胸板を押し返す。

「そんなに噛まないでっ、……切れちゃう」

 しかしどんなに騒いでも、修羅は雄茎を咥えたままびくともしない。それどころか包皮を噛んだまま引っ張るので、全身を貫く激痛に意識が落ちかける。
 きつく結ばれた腕を、懸命に解こうともがいても、どうにもならなかった。

「あーッ、ァっあ! 修羅ぁ……っ!」

 全身から汗が滲み、呼吸が速くなっていく。耳の奥で心臓の鳴る音が響き、血流が上がる。
 どうしよう、どうしよう……!
 頬は真っ赤に蒸気していく。
 生理的な涙が頬を伝うのに気がついた頃、しかしあっさりと修羅の頭は恥部から離れた。

「……え?」

 自分でも信じられない。
 滲んだ視界で捉えた修羅の唇には、白濁がつたっていた。


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