禍ノ子
 天敵 / 椿


「ん、んん……」

 日差しが眩しい。閉じた瞼の上から容赦なく差し込む朝日に、椿は眉を寄せた。ブラインド開けたままだっけ、ああ、そうだ。昨日から帝国隊に就任して、二号館に移ったんだ。明日からは閉めて寝なくちゃ。それに今朝はなんだかやけに体が重い。喉も痛いし風邪でもひいたのかも。就任初日になんて失態だ、体調管理も大事だと言うのに。
 そこまで考えてから椿はハッと目を覚ました。ものすごい悪夢を見ていた気がする。そう思いたかった。けれど隣で体格のいい男が眠っている。大志だ。逞しい腕が胸の上に乗っているせいでめちゃくちゃ重たかった。

 あ、これ夢じゃない。

 そう自覚した途端、椿は一気に現実に引き戻された。体には謎の体液が乾いてこびりついている。というかお互い全裸だ。身体中に散るのは無数の噛み跡やらキスマーク。新しいベッドはとんでもなくぐちゃぐちゃで、床には脱ぎ捨てた衣服とティッシュの山。
 誰がどう見てもワンナイトしている。途中で意識を失ったけれどあの後どうなったんだろう。乳首の周りに執拗にこびりついている何かが、かぴかぴに乾いている。
 隣で大志が寝返りを打った。昨日あれだけ酔っ払っていたのに、なぜか肌艶が良い。待って、起きるな。どんな顔してあえばいいか分からなさすぎる。何がどうしてこんなことになったのか、椿はもちろん、大志にも説明ができないはずだ。
 固まる椿の横で目覚めた大志は、椿を視界に捉えるとしばらくぼんやりとその顔を見つめた。しかしすぐに何か考え込むような表情に変わり、そのまま沈黙している。続いて、信じられない第一声を発した。

「まずい……忘れた」
「は、はあ!?」

 いや、よかった。いや、よくない。ジェットコースターに乗せられたみたいに椿の感情はとんでもないことになっている。こんなことまでしておいて忘れたなんて最低なやつ。最低すぎる。責任取れなんて女の子みたいなことは言わないけれど、いや、でもやっぱり言いたい。

「あ、ちょっと待って、なんか思い出せそう」
「おおお覚えてないんなら一生思い出さなくていいから」
「違う、お前が潮噴いたとこまでは鮮明に覚えてる」
「はあ!?」

 それは全部覚えてるじゃないか! 顔から火が出そうなほど真っ赤になった椿は、怒り狂って枕を大志に叩きつけるとベッドから降りた。いや、正しくは転がり落ちた。
 腰が全く立たない。おまけに中に出されたままの大志の精液が溢れてしまった。恐ろしい事に、一回や二回の量ではない。羞恥心と怒りが混ぜこぜになりながらなんとか立ち上がり、まだベッドの上で何か考え込んでいる大志をおいてシャワールームに駆け込む。

 バタンと閉じる扉を見つめながら大志はしばらく唸っていた。あの時、何かとんでもなく大事な事に気がついたはずなのに、思い出せない。腕の中で気を失った椿に血管が千切れるほど興奮したせいかもしれない。勝手に結腸の奥まで挿れて中出ししたし、乳首に亀頭を擦って射精したのも最高によかった。無抵抗な椿に好き放題する背徳感が堪らなくて、新しい扉を開いてしまったかもしれない。
 思い出しているうちに、下半身に血液が集まり始めた。このままでは初日の訓練に遅刻してしまう。

「椿! 俺もシャワー浴びさせて」

 ぎゃー! と椿の悲鳴がこだます二号館の朝。大志がいればなんとかなりそうだなんて思っていたのは遠い昔。
 今となっては先行き不安な、二人の帝国隊の生活が始まった。



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