罪ノ子
 発情 / 伊織


 弛緩した仮膣から長い指が抜き去られると、楔を失った衝撃に体が引きつれる。甘ったるい余韻に浅く喘ぐと、無防備な頬を熱い何かが叩いた。

「……え?」

 駆蹴の鈴口から白濁が勢いよく迸出した所だった。尿道が気持ち良さそうに脈動する度、びゅくっ、びゅく、と放たれた精が、伊織の前髪や頬へ絡み付く。不用意に開いた唇にまで飛ぶ濃厚な雄に、驚いた伊織は硬直した。
 頬に付着したゼリー状の固まりを、直接人差し指で掬って口に含んでみる。苦い粟の花のような、不思議な味がした。

「……は、っ……ぁ……こら、やめろ」

 快楽を耐える駆蹴の顔は、こんな時まで格好いいから少しずるい。瞳を細めるとすぐに唇を拭われたので、動揺した伊織は顔をあげた。

「ごめ……なさっ、嫌いにならないで」
「……なんで、そうなる」
「だって」

 もごもごと口ごもる伊織に呆れた駆蹴は、何度目か知れない溜め息をついた。

「別に、お前がこだわる“いい子”でいる必要はない。それに、俺のほうが嫌なことしたんじゃないか」

 何の事か全く分からなかったが、顔射の事を言っているのだと気づくと慌てて首を横に振る。

「こんなの全然嫌じゃないよ、むしろ嬉……っむぐ」
「妙な事を、勢いで口走るな」

 頬を掴まれて会話の続きは強制的に中断される。「勢いじゃない」と抗議したかったが、綺麗にたたんだハンカチで顔を拭いてくれたので、大人しくすることにした。

 お互いに快感の波を越えると、蒸し暑い車内に気づく。駆蹴が窓を開けた途端に、濃縮された空気は水で薄めたように霧散して、代わりに入り込む外気に正常な思考が戻ってきた。
 地下の駐車場にいるので外の様子は分からないが、そろそろ宏夢が部屋に戻ってくる時間だと思う。それまでにシャワーを浴びておかないと、絶対変に思われるに違いない。
 そわそわし始めた伊織の思考はどうやら筒抜けのようで、服を直す駆蹴に苦笑されてしまった。

「心配しなくても、まだ平気だ」
「……っ、うん」

 駆蹴の落ち着いた声に安心したが、同時に伊織は異常な後ろめたさを感じた。
 どんな顔をして宏夢と会えばいいのだろう。
 駆蹴は宏夢の大事な人なのに、後先考えないで行動してしまう自分が、今さら恨めしくなる。
 説明のつかない感情に混乱した伊織は、ドアを開けた広い背中に、思わずしがみついた。

「ひ、宏夢君に言わないで……!」

 せめぎあう心情は、どこまで理解されただろうか。駆蹴は何も言わずに振り向くと、真下で震える白花の髪を優しくかき混ぜた。


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