贖罪ノ子
全テノ始マリ / 龍二
「なんかお前龍の匂いするぞ」
「えっ」
いつものようにグラウンドでストレッチをしていると、八重とペアを組んでいた豹吾がぼそりとつぶやいた。
隣で背中を押されていた龍二にも、二人の会話が聞こえてくる。
「なんで」
「し、知らないよっ」
八重の声が上ずっている。
たぶん毎日くっついて眠っているからだ、と思った。あれからなんだかんだと理由をつけて、結局一緒に寝ている。
「なー、龍、なんで」
豹吾の猛禽類のような瞳は、まだ八歳のくせに恐い。
「えー、たぶん毎日一緒に、って……だああああ!!」
「龍はもっと柔らかいでしょ!」
「何してんの、八重」
いつのまにか八重は豹吾から手を放し、月輝と一緒に龍二の背中を押していた。
「き、切れる! アキレス腱切れる!」
ぎゅうぎゅう背中を押してくる八重の力は意外に強い。悶絶する龍二を見て、豹吾は目を細めた。
「怪しい」
「あやしくなんてないし! 豹吾のえっち!」
「はあ!?」
八重の手が龍二から離れる。
「えっちとか言ってる八重のがよっぽどえっちだろ!」
「えっちじゃないもん!」
「えっちだろ、ちんこついてんだろ」
「関係ないもん!」
ぎゃーぎゃーと喧嘩が始まった。その横でぐったりしている龍二の肩を月輝が叩く。
「おい、あいつら喧嘩してんぞ」
「いつものことだろ」
「訓練中だ、教官がこっち見てる」
「げ」
顔を上げれば、月輝の言う通りに教官がすごい顔をしてこちらを見ている。
「八重、八重、落ち着け」
豹吾の前髪を掴んでいる八重の脇に手を入れて、引き剥がす。離せ離せと大暴れしながら、八重ははっとして龍二の顔を見上げた。
いつもは白い頬が、真っ赤だ。
「離せよっ、龍のあほ!」
「はあ!?」
「ばかちんこ!」
「おま、黙ってれば言いたい放題言いやがって!」
「いい加減にしろ」
「「あ」」
坂牧教官の冷たい声に凍りついて、二人同時に振り替える。
「お前ら四人、訓練終わるまで外周走ってろ」
「「「えー!?」」」
「……はぁ」
巻き込まれた月輝のため息が聞こえた。