罪ノ子
 全テノ始マリ / 龍二


 龍二は自分のベッドに腰掛けて、八重を眺めていた。
 八重はロケットや星の柄のついたパジャマを着て、自分の洋服をクローゼットに閉まっている。白い小さな指が洋服を端からくるくる丸めては、団子状になったそれを引き出しに突っ込んでいるのだが、それが隙間からはみ出しているのに、特に気にしていない。
 もしかすると、彼は顔に全部繊細なところが出ただけで、内側はとんでもなく大雑把なんじゃないだろうか。

「ぐちゃぐちゃだぞ」

 見かねた龍二が声をかけると、八重がきょとんとして振り返った。

「ん? いーんだよこれでっ」
「いい訳ないだろ、ちょっと貸せ」

 少し口を尖らせた八重が、本人は畳んだつもりらしい服を持ってきた。
 それをベッドの上に広げて、「こうやってたたむんだよ」と不器用ながらに教えてやる。八重は俯いて、龍二の手元をじっと見つめた。
 まだ少し濡れた金の髪が、艶々と蛍光灯の光を反射している。同じシャンプーの匂いがした。

「ほら、こうだ!」
「えーぐちゃぐちゃー」

 龍二もお世辞にも綺麗にたためているとは言えなかったので、誤魔化すようにベッドに寝転んだ。

「文句言うならもー寝るぞ」
「あっ待って!」

 部屋のデジタル時計は午後九時五十五分を示していて、もう少しすれば、自動的に四号館の寮の照明は消される時間だ。

「もう消灯時間だぜ」
「もっと話したいよ」

 龍二のベッドに座った八重は、柔らかそうな頬を不満げに膨らませている。

「……小さい声でなら」
「やったぁ!」

 龍二が壁際に寄ってスペースをあけてやると、八重はすぐに潜り込んだ。ちょうどタイミングよく、パチン、と蛍光灯の明かりが消える。

「悪いことしてるみたいで楽しいね」

 八重は暗闇の中で、もぞもぞと動いている。指先が触れたと思うと、八重の太股に左足を挟まれた。
 一瞬驚いたけれど、嫌な気はしない。

「ねぇ、龍はどこから来たの?」
「どこからって?」
「ケージに来る前だよ」
「あんま覚えてない、気がついたらここにいた」
「お父さんやお母さんは?」
「知らない」
「……そうなの」

 八重の腕が腹の周りに絡んだ。

「寂しくない?」
「寂しくねーよ」
「そっか」

 八重は龍二の胸に顔を埋めると、ぐりぐりと押しつけてくる。

「あのね、龍の目の色、俺と同じなんだよ」
「え?」
「茶色なの」
「あ、そう?」
「うん、みんないろんな色だったけど、龍だけ俺と同じ」

 そういって、八重は細い指で龍二の目じりを撫でた。

 それから八重は龍二を質問責めにした。誕生日から、血液型、好きな食べ物。走るのは得意か、海で泳いだことがあるか。
 正直眠かったが、無邪気な質問に律儀に答えた。

「んーと……、じゃあ、好きな……、動物」
「動物?」
「うん」
「あんま知らないけど……あ、シマウマとか」
「…………」
「八重?」

 返事をしない八重を覗き込むと、長い睫を伏せて眠っていた。
 すぅ、ぴぃ。
 規則正しい寝息と合わせて上下に動く細い背中を、ぼんやりと撫でる。

「……あったけぇ」

 誰かとくっついて眠るなんて、初めてだ。
 八重の、自分より少しだけ速い心臓の音。柔らかい髪の香り。小さな寝息。
 いつもよりベッドは狭いが、不思議と心地いい。
 開け放したままの窓から夜風が入り、くっついたまま眠る二人を優しく撫でた。


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